第2回 コンプレックスを〝強み〟に
お道の信仰者には〝にをい〟がある。それは優しさ、謙虚さ、ユーモアであったり、時には自らの信仰実践に対するストイックさであったりする。そんな絶妙なフレグランスは、周囲の人たちを包み込み、感化する――。お道の〝薫り人〟を紹介するこのコーナー。第2回目は、天理教学生会第58期委員長を務める橋本善希さん(21歳・磯部分教会)だ。
「知らず知らずに、ほこりは心に積み重なっていきます。そんな心をキレイにするため、今からひのきしんの時間です。皆さん、いってらっしゃい!」
爽やかな笑顔を浮かべながら、手を振る橋本さんがパソコンの画面に映る。はやりのマッシュヘアーに丸いフレームの眼鏡。頭脳明晰、〝デキる委員長〟という風采だ。
これは、天理教学生会運営委員会の常時活動の一つ「おうちひのきしん」の一コマ。昨年5月から毎週水曜日、会議アプリ「Zoom」でオンライン開催している。
開始時刻は22時。冒頭、『天理教教典』第七章「かしもの・かりもの」を拝読。続いて20分程度、各自でひのきしんを実施した後、お道の書籍を読むなどして教理勉強に励んでいる。
この日は、参加者9名で『天理教教祖伝』第十章「扉開いて」を輪読。その後、橋本さんが内容を的確かつ簡潔にまとめ、自身の感想を述べた。
終了したのは23時過ぎ。眠い目をこすりながらも求道に励む学生の姿に感銘するとともに、そんな彼らを牽引する〝学生会のリーダー〟に会うのが楽しみになった。
「何を言っているか分からない」
翌日、橋本さんをはじめ、副委員長の白鳥稜河さん(21歳・音成子府分教会)と番場真結さん(20歳・渋川町分教会)の二人が、教庁(真南棟)3階の天理教学生会室で出迎えてくれた。
「昨晩、お話が上手だなと感心しました」と感想を伝えると、橋本さんからは意外な言葉が返ってきた。
「実は僕、根は〝コミュ障〟なんです。自分の思いを言葉で表現することがとても苦手で、元々はかなりのコンプレックスでした。一対一の会話でさえ『何を言っているか分からない』と言われてしまうありさまで・・・・・・(笑)」
地元・三重県の中学校へ進学した。そこは授業妨害などが日常的に頻発する、いわゆる〝荒れた学校〟だった。「生来、人付き合いが好きな性格だったけれど、精神的にしんどくなって内にこもるようになった」
中学卒業後は、天理教校学園へ進学。マーチングバンド部でカラーガードに没頭するも、伸び悩んだ。「下手くそ過ぎて、俺ここにいる意味があるのか」と自暴自棄になった。
「そんな自己肯定感の低さは、天理大学入学後も変わりませんでした。1年生の秋に誘われて学生会に入ったんですが、人にどう思われているのかが怖くて、新しいつながりを避けていました」
言葉尽くし熱い思いを伝えて
「そんなコンプレックスを克服できたのは、今の立場のお陰です。しかも、つい最近やっと……」
一昨年11月、学生会委員長に立候補した。立候補者がおらず、来期学生会の存続の危機に直面する中、「学生会が好き」という気持ちから生じた使命感だけで立候補した。
就任の前後、人前で話す機会が増えていく中、重圧は予想以上だった。
「歴代の委員長さんたちには、人を魅了するカリスマ性があるし、いま副委員長を務めてくれている二人には優れた表現力があります。当初、何の取りえも無いポンコツな自分と、彼らとを比較して焦りや不安が募るばかりでした」
昨年5月、全国の直属・教区の委員長が集まり、委員長の所信表明や活動方針などを発表する委員総会では、質疑に的確に答えられなかった。ついには議案が可決されず、7月の臨時総会に持ち越された。
「今期の委員長にはついていけない」
事後のアンケートには、厳しい意見が並んだ。「正直、心にグサリと刺さりました。でも、自分の弱みをありのままさらけ出し、信用が『ゼロ』になって吹っ切れることができました」
臨時総会までの2カ月間、各直属・教区の学生会委員長へしらみつぶしに連絡した。電話や面会するなどして、言葉を尽くして熱い思いを伝えた。副委員長の二人とも、日夜時間を忘れて話し合った。
「この期間が、精神的に最もきつかったけれど、周囲の支えの有り難さと人とのつながりの大切さを学びました。気付けば、自分の思いをしっかりと人に伝えられるようになっていました」
迎えた臨時総会――。活動方針は可決され、橋本さんは泣き崩れた。 「その日は疲れ過ぎちゃって、夕方5時から爆睡でした」
〝ある人〟の言葉の意味
取材中、傍らでは副委員長二人がテキパキと業務をこなしている。彼らに委員長の人柄を尋ねると、「出会った当初から近づきやすくて、話しやすかったです。天然なところもあって皆に愛されていますよ」(番場)、「信仰に対するひたむきな姿勢に、私は敵いませんし、ただただ尊敬しています」(白鳥)と返ってきた。
そんな称賛を聞いて、「私、ほんとポンコツなんで、優秀な二人に本当にたすけられています。二人にそんなん言われると、正直テレます」と頭をかく橋本さんは、こう続けた。
「今になって〝ある人の言葉〟の意味がすごく理解できます」
立候補はしたものの、重圧に押し潰れそうになった当時――。ある夜、寝つけず午前2時過ぎに本部神殿へ参拝した。おつとめを勤め終える頃、教服姿の影が近づいてきた。神殿当番中の大教会の後継者だった。
「後日、若先生に相談に乗ってもらいました。自分は口下手でダメなんだって打ち明けたら、『めちゃくちゃデキル人とめちゃくちゃデキない人が頑張っていたら、善希はどっちを応援したくなる? 自分が弱みだと思うところが、実は他の人には無い強みだったりする。善希しか持っていない強みが必ずある』と励ましてもらったんです」
この深夜参拝の出会いを「神様のご守護」と表現する橋本さんは力説する。
「私は歴代の委員長さんのように雄弁家でもないし、カリスマ性もありません。けれど、壁が無くて、誰でも気兼ねなく話ができる人だと自負しています。どんな人でも声が掛けやすい、相談しやすいという自分の強みに気付けました。若先生の言う通り、私の弱みは実は〝強み〟だったんです」
そんな彼は今、後輩たちから悩み事の相談はもとより、「委員長の魅力は何ですか?」という質問を受けるようになった。
「この質問をされたとき、私は自信を持って伝えています。『委員長は大変な事がたくさんあるかもしれない。けれど、学生会の中で誰よりも成長できて、誰よりも神様に救けていただける立場であり、それが魅力だよ』と」
第58期委員長も、やはり人を魅了するカリスマだった。
(文=石倉勤、写真=廣田真人)
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