【伊勢谷スポーツ倶楽部独占ルポ】新たな歴史を作るために天理高校サッカー部の挑戦!
私が天理高校に入学後、体育の授業でグラウンドに下りたとき、衝撃的なことに気付いた。「ラグビーボールはあるのにサッカーゴールがない!!」。天理がサッカーよりも「ラグビーの街」であることを強烈に感じた瞬間だった。
あれから25年、天理高校サッカー部が少しづつ脚光を浴び始めている。全国大会出場を目標に掲げるサッカー部の挑戦に迫る!

サッカーは“気持ちのスポーツ”
鮮やかな人工芝が広がるラグビー場(南グラウンド)から道を一本挟んだ西側にサッカー部のグラウンドがある。
4月下旬、授業を終えた選手たちが春の日差しを浴びながら練習に励んでいた。
「サポート!」「間から入れ!」「ミスっても切り替えろ!」
5人グループの選手たちがオフェンスとディフェンスに分かれてボールを争奪している。これは【2vs2+フリーマン】という練習、サッカー素人の筆者はどういう練習なのか分からず立ちすくんでいたが、オフェンス2人がフリーマンも交えてボールをキープ。ディフェンスにボールを奪われるとすぐに攻守が切り替わり、ディフェンスに回る。ボールを奪われて「ミスった!」と天を仰ぐ選手に、「早く切り替えろ!」と仲間が指示を出す。試合中の攻守の切り替えを意識した練習のようだ。最初は笑顔も見えたが、徐々に真剣味が増して熱くなっている。

続いて、オフェンス、ディフェンスに分かれて【ゴール前 3vs3】の練習が行われた。オフェンスの3人は点を取り切れるか、一方ディフェンスは守り切れるかが重要だ。吉村監督が選手を集めて「守備のメンバーは強くなれるかが大事やで。前回の練習では諦めていたからね。強くいこう!」と檄を飛ばす。
サッカーの練習を見学するのは初めての筆者。どんな雰囲気で何が行われるのかに興味津々だった。最初のメンバーが攻守に分かれてポジションにつく。オフェンスの選手のシュートがゴールを外れると、すぐさま吉村監督がグラウンドに新たなボールを転がす。順番を待っている選手から「早く戻れ、切り替えろ」と声が飛ぶ。シュートを外しても、ボールを奪われても一喜一憂するのではなく、次の動きを大事にしている。ボールを捕られた後も諦めずに追いかけられるか、ゴールが決まった後もすぐに切り替えて次のプレーに移れるか、選手全員が切り替えを大事にしているのが伝わってきた。


「ディフェンス、しんどいときにやるかやで! やらなさすぎや!」 「もっと声出せよ!」 「付いていけよ、諦めるな!」
熱くなってきた選手同士が激しい檄を飛ばし合う。サッカーは“気持ちのスポーツ”なのだと教えられた。
感動を与えたサッカー部員の振る舞い
「サッカーは体の接触が多い分、気持ちで負けるわけにはいかないんです。なのでアツイ気持ちが大事です」
そう教えてくれたのはサッカー部部長の川口先生。サッカー未経験ながら長年部長をつとめている。
天理高校サッカー部は近年着々と力を付け、今年のチームは新人戦で天理高校初の奈良県3位の成績を残した。そのことに触れると、「好成績もうれしいですが、吉村監督が常々伝えている私生活の大切さが、少しずつ選手に浸透してきたのがありがたいです」と言って、あるエピソードを教えてくれた。
取材の一週間前、天理高校の事務所に一通のメールが届いた。そこには、「天理高校サッカー部のポロシャツを着た生徒さんが、電車でご高齢の方に席を譲っているのを拝見しました。とても自然で礼儀正しい振る舞いで、見ていて気持ちが良く感動したので、ご報告だけでもと連絡をさせていただきました。きっと日頃のご指導の賜物かと思います」と綴られていたという。高校生が素晴らしいにをいがけをしていたことに感動した。ふとグラウンドを見渡すと、自転車がキレイに並べて駐輪されていたり、部室がきれいに片付いていたりと、サッカー以外の部分でも感心することがたくさんあった。

私たちが話をしている横で、新入部員が基礎練習に励んでいた。初心者の部員も多数いるそうで、いかにも新入生といった雰囲気が漂っている。二年後、彼らがいまの上級生みたいに成長していることが楽しみだ。

天理高校サッカー部の魅力
薄暗くなったグラウンドを照明の光が鮮やかに彩り、練習の緊張感が一気に増す。最後は実践形式の試合が行われた。吉村監督に話を聞くと開口一番、「まだまだ発展途上のチームですよ」と微笑む。あいさつや礼儀、気持ちの切り替えなど監督の目には物足りなく映るようだ。しかし筆者はその発展途上感がたまらなく魅力に感じた。サッカーは気持ちが大切と理解したからこそ、日々の心の遣い方や、ミスした後の切り替え、苦しいときの強い気持ち、これらがさらに成長したら今よりも高みを目指せるのではないかという期待が膨らんできた。

静かにプレーを眺めつつ、時折厳しい檄を飛ばす吉村監督の口から出てくるのは、メンタル面の話ばかり。「勝ち負けよりも親御さんに喜んでいただけるチームを目指したい」「先生や友達からも応援してもらえるチームでありたい」など、選手に人として成長してほしいという思いで溢れていた。
一方で、毎年チーム力を維持する難しさも口にしていた。今年の三年生は能力の高い選手が多いが、強豪クラブに比べると選手が集まりにくいのが課題だという。そのエピソードは、今回の記事を書くうえでさらなるモチベーションを与えてくれた。そして、ますますサッカー部を応援したくなった。

練習後、キャプテンの木谷勇磨選手とゴールキーパーの福井洋一郎選手にお話を伺いました。
——福井選手は、3vs3の練習中、「やらなさ過ぎや、もっとやらんでどうするねん!」と檄を飛ばしていましたね。
福井選手: そういう声を出していかないと、チームは変わりません。チームが勝つためには一番後ろから見ている自分が声を出さないといけないという意識でプレーしています。
——木谷選手はなぜ天理高校サッカー部に入ったんですか?
木谷選手: 小学校からサッカーをしていて、天理中学だったので、天理高校で全国大会に行きたいと思い入部しました。


福井選手(左)と木谷キャプテン(右)
——新人戦で奈良県3位の好成績でしたね!
木谷選手: 今まで勝てなかった相手にもみんなで最後まで粘りきって戦えました。数少ないチャンスでも全員で得点を決められたことに手ごたえを感じました。
——練習を見学して、サッカーは気持ちが大切なんだと学ばせてもらいました。
木谷選手: みんなが苦しいときでも良い声かけができれば試合の流れが変わっていくのでとても大事だと思います。
——吉村監督の指導はどうですか?
福井選手: 一人ひとりのことを大切に考えてくださっていると思います。ある選手が身上のときには家までおさづけを取り次ぎに来てくださったことがありました。選手のことを思って寄り添ってくれる監督です。
——最後に天理高校サッカー部の魅力を教えてください。
木谷選手: “みんなで一手一つで戦えるサッカー”こそ天理高校の魅力だと思います。
——ありがとうございました!
天理高校サッカー部は全国高等学校総合体育大会(インターハイ)奈良県予選で2大会連続準決勝進出し、3位の好成績を残しました。現在は、全国高校サッカー選手権大会出場に向けて頑張っています。応援よろしくお願いします!

伊勢谷のふりかえり
私は中学時代野球部に所属していた。部活が休みの日でも、仲間と広場で野球をしていたくらい野球少年だった。憧れの天理高校野球部に入りたくて迷わず受験した。もし天理高校野球部が弱かったら地元の高校に進学していたはずだ。
「天理高校サッカー部が強くなれば、お道のサッカー少年たちが天理高校を選んでくれると思うんです」
事前の電話取材で吉村監督が伝えてくれた言葉であり、記者としての心のスイッチを強烈に押してくれた瞬間だった。
お道も好きだけど、サッカーも好き。そんな子どもたちが今回の記事がきっかけで、天理高校サッカーを志してくれる。
お道のスポーツ記者としてこんな幸せなことはないだろう。
(文=伊勢谷和海 / 写真=佃隆司)
伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI
1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。

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