【伊勢谷スポーツ俱楽部独占ルポ】夢を現実にしたラガーマン・森川稔之さん 地元ラグビークラブ復活の挑戦!
地元ラグビークラブ復活の挑戦!
ラグビースクールを作り、人のために動く大切さ、夢を持つことで得られる活力を子どもたちに伝えたい――。
昨年1月に取材したときに森川稔之さんが語ってくれた夢だ。半年後、森川さんが少年時代ラグビーに明け暮れ、後に廃部になった「福岡平尾ウイング RFC (以下・平尾ウイング)」を復活させたという一報が入ってきた。夢の実現から1年、福岡の地で挑戦を続けるラガーマンに会うために、平尾ウイングの練習を訪問した。

平尾ウイング復活の軌跡
JR博多駅から車で15分。賑やかな街並みの中にある天理教西北分教会。9月上旬とは思えない猛暑の中、早朝からラグビー用具を車に積み込む森川さん。汗を散らしながらタックルマットやホワイトボードなどの大きな荷物を準備していた。
グラウンドは近隣の小学校だが、毎回用具を持ち帰るので準備だけで大変な作業だ。森川さんの姿に勇み立った筆者は、一番大きな用具を車に積み込もうとした。すると森川さんが「あ・・・、今日はそれ使わないです」と笑顔で一言。空回った筆者だが、森川さんの優しい表情に救われた瞬間だった。


教会に一台の車が入ってきた。いかにもラガーマンという体格の男性が下車して準備に合流すると、教会の二階の窓から子どもたちが「なベコーチ! おはようございます!」と手を振る。渡邊能彦(よしひこ)さんは平尾ウイング出身で森川さんの同級生。現在はコーチとして監督の森川さんをサポートしている。
渡邊コーチは平尾ウイングの廃部を寂しく思いつつ、いつか復活することを期待していたそうだ。そんな中、昨年、森川さんから「復活させたいから手伝ってほしい」と連絡をもらうもさまざまな不安から一度は辞退。しかし、森川さんの熱意にふれて「手伝うくらいなら」と了承した。
そのエピソードを聞いていた森川さんが「ナベはすごいですよ」と語気を強めた。森川さんが平尾ウイング復活に動き出した頃、大教会から教養掛の任命を受けた。手伝ってくれるOBが見つからない中も「おれ一人でも復活させる」と意気込んでいた森川さんだったが、1ヵ月チームを離れることになり先案じが頭をよぎった。そんなとき、「その期間は任せてくれ」と背中を押してくれたのが渡邊コーチだった。いまでは森川さんの大きな支えになっている。
その後、平尾ウイングの歴代 OBに一人ずつ連絡を取り LINEグループを作成。口コミで広がり、いまでは90人が集まっている。その中からコーチをしてくれる方も少しずつ現れ、地道な動きが開花しつつある。

平尾ウイングは1995年に創設された小学生対象のラグビースクールで、森川さんは10代目になる。強豪高校・大学に選手を送り込み、多数のトップリーガーを輩出した。
当時の監督が体調を崩して活動が困難になり、やむを得ず2009年に廃部。15年間活動が休止していた。前監督は現在も闘病中だが、森川さんがチームを復活させたことをとても喜んでいるそうだ。復活を望むOBも大勢いたようで、復活に向けてクラウドファンディングを募ると約70万円が集まった。森川さんはこの資金でラグビー用具を購入。さらに体験会を開催して少しずつ入部希望者を増やしてきた。森川さんの熱意の大きさが多くの人の心を動かしている。
平尾ウイングコーチ陣の魅力
9時30分、小学校のグラウンドで練習の準備を行う。この日は最高気温37℃の予報。筆者もすでに痛いほどの日差しを浴びていたが、森川さんたちは丁寧に準備を進める。
「ヤッホー!!」
数人の子どもたちが元気にグラウンドに入ってきた。彼らは西北分教会の部内教会所属の子どもたちで、片道40分かけて練習に参加している。保護者の牧理恵さんは教会長夫人だ。「今日はありがとうございます。トシ君の記事読みましたよ」と気さくに話をしてくれる。この日は、お道の子どもたちと近隣の子どもたちを含めた15人が参加した。


練習前に集合して、森川さんが「今日もラグビーを楽しんでいきたいと思います」と声をかける。その後、「試合が楽しみな子、いますか??」 と森川さんが聞くと全員が手を挙げる。実は9月末に平尾ウイングが復活して初めてとなる試合を控えている。子どもたちも気合いが入っているはずだ。
「ひらおー!! ゴーファイト、ゴーファイト、ゴーファイト!!」
キャプテンを中心に声を出しウォーミングアップが始まった。森川さん、渡邊コーチも一緒に走る。
その様子を見つめていたのは小河康蔵コーチ。平尾ウイング5代目のOBで、東福岡高校、明治大学で活躍をされた。森川さんにとってあこがれの先輩であるとともに遠い存在だったが、平尾ウイング復活をきっかけにつながったという。
小河コーチは子どもたちのアップが終わるとすぐさま表情を切り替えて「移動はジョグだぞ」「みんな日陰に入ろう」と声をかけた。体操中、渡邊コーチが「みんな声出してね」と優しく声をかける。


体操後、人工芝に移動してサーキットトレーニングを行った。印象的だったのは、森川さんが上手に子どもたちを褒めていたことだ。ある子がでんぐり返りをしたとき、「お!できるようになってるやん!」と満面の笑顔で褒めていた。全員がゴールした後、みんなの前で伝えると大きな拍手が起きる。子どもたちはとてもうれしそうだ。


その後、低学年 (1・2年生)と高学年 (3年~6年生)に分かれての練習が始まった。高学年は月末の試合に向けて実践的な練習をするようだ。タッチフットやタグラグビーの経験しかない子どもたちにラグビーをどう伝えるのか、筆者も興味津々だった。

森川さんが「最初のキックはバウンドさせてから蹴ります」と伝えると、子どもたちが「え、そうなの?」と首を傾げる。経験者なら当たり前のことだが、子どもたちは素直に疑問を投げかける。また、子どもチームとコーチチームで軽いコンタクトを交えた実戦を行ったがスムーズにいかない。例えば、ボールを持ってもコンタクトを避けてパスで後退したり、パスする相手が見つからず立ちすくむ場面が多かった。コーチ陣が「捕まってもいいから前に出よう」 「パスができないと思ったら、力強く前に進もう」と説明をするが、すぐには上手くいかない。
筆者はどうなるのかと見ていたが、プレーが止まったときに小河コーチが子どもたちに「バスは後ろにしか出せないよね。でも前に攻めたい。だから自分たちで前に進むしかないよ」と冷静に声をかけた。すると、パスを受けた子どもたちが見違えるように前に出るようになった。スペースに走り込み、パスを回して見事な初トライ! 「そうそう、止まりそうになったらとにかく前に出よう」とコーチ陣もうれしそう。成長する子どもたちの姿と、伝え方や寄り添い方を工夫するコーチ陣の姿が印象的だった。


一方、低学年は渡邊コーチが練習を見ていた。低学年の練習コンセプトは「楽しむ・ラグビーボールに慣れる・友達をつくる」。まずはボールを投げる練習。初参加の子どもたちが3人いたが、中には休憩中もパスをして遊んでいる子もいて、少しずつ慣れてきた様子だ。すると渡邊コーチが「『だるまさんが転んだ』をするよ」と声をかける。渡邊コーチが鬼で、ボールを持った子どもたちが「だるまさんが転んだ」をしながら楽しく前に進む。「なるほど、ボールをキャリーする練習だ」と感心した筆者。単にボールを持って走るのではなく、遊びながら楽しくボールに慣れる。まさにコンセプト通りの練習だった。


その他にも工夫を凝らした練習が続き、子どもたちはとても楽しそうだった。何より渡邊コーチが表情豊かに子どもたちに声をかけて、楽しんでいる姿が印象的だった。そんな「なベコーチ」の空気が子どもたちを包み込んでいるように感じた。
保護者から見た平尾ウイングの魅力
練習時間は10時から約2時間。適宜水分補給を行っていたが、11時前に休憩になった。牧理恵さんに「保護者目線で感じる平尾ウイングの魅力」を聞いた。

「コーチ陣が充実していて手厚いんです」
理恵さんが開口一番伝えてくれた。子どもたちの成長を第一に考えて、温かく見守ってくれる。その姿勢がしっかり統一されているそうだ。聞くと、定期的にコーチ陣がミーティングを行っているという。団結力の強さにも納得だ。続けて理恵さんはあるエピソードを話してくれた。
どうしてもチームの輪を乱してしまう子がいて、森川さんも練習に参加させるべきか悩んでいた。すると、あるコーチが「あの子も練習に参加してもらいましょう」と背中を押してくれたそうだ。そのコーチは「そういう子が入ることで、さらなる変化が生まれていく」「安定したチームを目指すのではなく、人が入れ替わったり増えたりすることで、子どもたちの姿が変わっていく」という信念を共有し、コーチ陣も意識を統一する機会になった。
理恵さんは、「私は親なので練習中に子どもの様子が気になってつい怒ってしまうんです」と苦笑いしつつ、「コーチ陣は『待つこと』を大事にしています。怒るのではなく、そこを堪えることで子どもの変化が生まれるんです」と伝えてくれた。
筆者も教会活動を通してさまざまな子どもたちと触れ合う機会がある。当然、手のかかる子もいて冷や汗をかくこともあるが、そういう子をどのような姿勢でお世話取りさせてもらうかがとても大事だと思う。コーチ陣のエピソードから平尾ウイングの素晴らしさを感じた。
教会のような平尾ウイング
練習終了間際、あることに気付いた。平尾ウイングの雰囲気が西北分教会にとても似ていることだ。
実は、取材前夜は教会に宿泊させてもらった。教会家族のみなさんと夕食をいただく中で、何とも言えない温かさを感じた。もちろん緊張しながら食卓に入ったが、いつしか饒舌に話をして、時間が経つのを忘れていた。自分のことを受け入れてもらえている感じがして、「居場所」に思えていた。
教会の雰囲気が染み付いた森川さんが監督をつとめるからこそ、そんな雰囲気に包まれているのか、それとも他の要因があるのか、それは分からない。ただ、朝づとめで会長さんが「今日はラグビー練習の日です。楽しんでさせてもらいましょう」と話をしていた。練習には森川さんの妹さんが手伝いとして参加し、また練習終了時には会長さんがアイスの差し入れをしてくださった。平尾ウイングの活動は単に森川さんの動きではなく、教会の皆さんにとってわがことになっていた。

冒頭の森川さんの将来の夢、ラグビースクールを作りたいと語った後にこう話している。
「お道の教えとラグビーの精神はとても似ていると思います。人のために体を張り、人の活躍をわがこととして喜べる。ラグビーを通して伝わるお道があると思っています」
平尾ウイングにはしっかりと伝わる”お道のにをい”に包まれていた。

(文=伊勢谷和海 / 写真=廣田真人)
福岡平尾ウイングRFC(少年・少女ラグビーフットボールクラブ)
通称【平尾ウイング】は、福岡市中央区にある平尾小学校を拠点とする小学生以下を対象とするラグビークラブです。経験者、未経験者問わず、ラグビーをやってみたい少年少女・マネージャーを大募集しております。
《 SINCE1995〜2009・復活2025〜 》
伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI
1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。

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