第11回 〝夢プレゼン〟がきっかけに
一般企業で働くのが難しい障害者を対象に、就労を支援する青年会員がいる。鍵田忠洋(かぎた・ただひろ)さん(37歳・土佐分教会ようぼく)は昨年8月、天理市内に就労継続支援B型事業所「陽ざし」を立ち上げた。福祉を志したきっかけは、中山大亮・青年会長の〝夢プレゼン〟を聞いたことにあるという。親里管内の学校での職員を経て、〝自分にできるおたすけ〟に挑戦する鍵田さんを訪ねた。
「チャレンジしたい!」をサポート
JR柳本駅から徒歩約10分。住宅街の一角に就労継続支援B型事業所「陽ざし」がある。
建物は一見、2階建ての一般住宅だが、正面玄関に入って驚いた。1階フロアに水槽が所狭しと並んでおり、まるで水産物の研究施設のようだ。水槽をのぞくと、小さなエビが飼育されている。
2階に上がると雰囲気は一変し、棚や床にはさまざまな種類の観葉植物が整然と並んでいた。
「これ、めっちゃかわいいでしょ」
そう言いながら、鍵田さんは彩色された小さな鉢を見せてくれた。「これ、陽ざしを利用してくださっている女性が『観葉植物の入れ物に色を塗ったらかわいくなる』と提案し、自分で塗ってくれたんです」と目を細める。
陽ざしは現在、10人の利用者を7人のスタッフでサポートしている。「みんなの『チャレンジしたい!』をサポートします!」をモットーに、利用者の「好き・楽しい」に合わせて作業できるように、プログラムは一人ずつ組んでいるという。
作業内容は、鑑賞用エビや観葉植物の世話取りをはじめ、ほうれん草やイチゴの栽培、地域の清掃活動など多種多様だ。
「就労系の事業所では、利用者は決められた作業をこなすというのが一般的です。うちでは一人ひとりに合った作業を用意し、利用者さんの主体性を大切にしています。スタッフの負担は大きくなりますが、利用者さんの生き生きとした表情がやりがいにつながっています」と鍵田さんは話す。
※就労継続支援B型事業所
障害者総合支援法における就労支援サービスには現在、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労定着支援の4種類がある。就労継続支援B型事業所は、一般企業での就労が難しい障害者に就労や生産活動の機会などを提供するというもの。利用者は雇用契約を結ばず、作業時間に応じて工賃を受け取る。
〝自分にできるおたすけ〟を志し
教会の次男として生まれた。天理大学を卒業後、天理学寮「北寮」で幹事を3年間勤め、その後は天理教校の職員として親里に伏せ込んだ。
「おぢばでの御用では、主に若い人たちと関わらせていただきました。ぼく自身、信仰熱心というわけではなく、おぢばでの御用を通して育てていただいたというのが正直なところです。ましてや当時、福祉について関心はまったくありませんでした」
そうしたなか、青年会敷島分会の委員として、3年前の青年会本部1月例会に参加した。その例会において、中山大亮・青年会長は「私の世界たすけ」をテーマにご自身の夢をプレゼンされ、その内容が鍵田さんの胸に強く響いた。
青年会長はこのとき、「おぢばに『陽気ぐらし村』をつくりたい」として、生活困窮者のシェルターや引きこもりのシェアハウス、憩いの空間といった具体案を示しながら、「心のたすかり」に力を注いでいきたいとお話になった。
青年会本部1月例会における青年会長の〝夢プレゼン〟はこちら
「青年会長様の〝夢プレゼン〟の中でも、福祉についてふれられたことが特に印象に残りました。このことをきっかけに『〝自分にできるおたすけ〟ってなんだろう』と考えるようになり、やがて社会で困っている方々のお役に立つことがしたいと思うようになったんです」
その日から時を経ずして、障害者の自立を支える「グループホーム」を運営する学生時代の友人に連絡を取った。その施設に足を運び〝現場〟を目の当たりにする中で、鍵田さんの心に〝夢の種〟が芽生えた。
「〝自分にできるおたすけ〟として、障害で困っている方々のお世話取りをさせていただこう」
思いもよらぬ出来事を前に
天理教校職員を退職後、施設の立ち上げに動き出した。ところが、思いもよらぬ出来事に直面する。施設にする予定だった場所の近隣住民から反対の声が出たのだ。
「そのころテレビで、ある施設に入所していた障害者が暴れて人にけがを負わせたというニュースがありました。地域の方々にとっては、そうしたネガティブなイメージが強かったのだと思います。誰しも自分の知らない物事に接することに不安は覚えるものなので、地域の方が不安になるのも仕方がないと思いました」と当時を振り返る。
それでも地域の人々の理解を得ようと、事業内容を説明して回ったり、地域の清掃をしたりと、思いつくことをなんでも実践した。そうしたなか、ある〝気づき〟があった。
「実家の教会では、昔から月次祭の祭典後に神饌物のお下がりを近所に配っています。教会に生まれ育ち、そうしたことは何気ない活動と思っていましたが、もしかしたら教会の先人たちは、地域の方々と信頼関係を築くために試行錯誤していたのかもしれないと思い至りました。
そうした教会の苦労に比べれば、自分のやろうとしていることは小さなおたすけだと思います。それでも、人にたすかっていただくことが神様に喜んでいただくことにつながり、そうした姿を通じて育てていただいた教会の方々に喜んでもらおうと、あらためて覚悟が決まりました」
70点をもらえるチームへ
昨年8月、就労継続支援B型事業所「陽ざし」を開所した。それと前後して、協力してくれる仲間が自然と集まった。スタッフは北寮の幹事時代の同僚や、天理教校の職員時代に出会った人がほとんどだという。
鑑賞用エビの養殖を担当するのは、幹事時代の後輩Aさん。さまざまな事情が重なり悩んでいたころ、本部神殿で鍵田さんとばったり会った。その再会がきっかけで、Aさんは陽ざしのスタッフを務めることに。現在は毎日事業所に通い、利用者をはじめスタッフが快適に過ごせるよう管理に努めている。
「それまで鑑賞用エビを生育したことはありませんでしたが、勉強する中で楽しくなってきて。毎日、水のpH(水素イオン濃度指数)を測定したり、ミネラルを足したりするので、そうした作業を利用者さんに手伝ってもらっています。卵から孵化した稚エビの飼育もするので、育てる喜びを共に味わっています」と笑顔を見せる。
陽ざしのスタッフはそれぞれの業務の専門性を高める一方で、所属教会の月次祭に欠かさず参拝する。お道の信仰でつながる仲間で構成されたチームだからこそ、日ごろからお道の行事への参加を促し合っているという。
鍵田さんは言う。
「青年会長様の〝夢プレゼン〟に背中を押していただいて福祉の道を志して以来、そのとき必要なタイミングに必要な人と出会わせてもらっているように感じてなりません。それはきっと、教祖が進むべき道を用意してくださっているのだと思います。
ぼくらの挑戦は緒についたばかりです。まだまだ未熟ではありますが、こうしてつながった仲間と絆を強めながら、神様から見て70点でもいいのでお喜びいただけるようなチームに成長していくことが今後の目標です」
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文=中西一治、写真=仁上貴大
―3年ぶりに夢プレゼンが帰ってくる―
多くの青年会員に夢や希望を与えた夢プレゼン。
今回は「誠の挑戦」をテーマに4人のファイナリストが夢を語る。
夢、挑戦、応援、誠で溢れる一日を共に。
日時:8月25日例会後(14時15分開始/16時終了予定)
場所:南右第二棟4階 陽気ホール
特別展示:ー夢展示ー
あなたの夢はなんですか?
皆さんの夢を募集します!
ご応募いただいた方の中から数点選出し、8月25日に例会会場(陽気ホールホワイエ)にて夢展示を開催します。
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