Youは何しにおぢばへ#3│つらいことの後に訪れる幸せ
おぢばから1万キロ以上離れた赤道直下の国、ケニア。この地に「テンリ」を冠した学校があるのをご存知だろうか。ケニア・エンブ県の周辺では「テンリ」と言えば案内してもらえるほど、その名が広く知られている。
今回インタビューしたムリティ・オスカー・ムゲンディさん(32歳・牛込大教会ようぼく)は、テンリ小学校で副校長を務めている。
現在は日本で生活しているオスカーさん。いったいどうやって天理教と出合ったのだろうか。天理教の何が彼を惹きつけたのだろうか。「Youは何しにおぢばへ」第3回は、彼の信仰生活に迫った。
天理教との出合い
オスカーさんは、ケニアの現地校を卒業した後、テンリ職業訓練学校に入学した。そこで彼は、当時同学校を経営していた塩尻安夫さんと運命的な出会いを果たした。おつとめをしたり、ひのきしん活動に従事したりする中で、塩尻さんから天理教のいろはを学んだ。
1998年設立。塩尻さんの妻・美智子さんの、ケニアの若い女性に洋裁の技術を身に着けてもらいたいとの思いから始まった。現在では洋裁をはじめ、自動車整備、溶接、食品栄養学、美容整髪技術など、さまざまな技術をケニアの若者に教えている。
塩尻氏の印象について「とても迫力がありました」と語るオスカーさん。こんなエピソードを聞かせてくれた。
「ひのきしんデーのとき塩尻先生は、みんなが嫌がる一番汚いところを自ら進んで掃除されるんです。日本人でありながらケニアの汚いところを掃除する姿を見て、ケニア人として恥ずかしくなりました。ですが、そういう姿があったから、塩尻先生が教えてくださることはしっかりと心に入ってきました」
学業を終えた後は、現在、美智子さんが運営する孤児院で勤めた。この孤児院で生活する子どもたちはエイズで親を亡くし、身よりもなく、寮で共同生活をしている。オスカーさんは昼間隣接する小学校で教鞭をとり、勤務後は子どもたちと一緒に孤児院へ帰り、宿題などの指導をしていた。
そんな生活をして1年がたった頃、天理教語学院(TLI)進学の打診があった。「日本に行ける絶好のチャンス」と思ったオスカーさんは、一路日本へ向かった。
天理教語学院で1年、おやさとふせこみ科で1年学んだ後は、牛込大教会で半年間青年づとめをし、その後、教人資格講習会を受講した。オスカーさんは人生初の日本滞在を、次のように振り返る。
「海外へ行ったのは日本が初めて。自分で決めたことでしたが、最初はつらかったです。ひらがなを覚えていたぐらいだったのに、授業は全部日本語のうえに、漢字まで出てきたりして。特に、最初の3ヶ月が大変でした」
2年半の日本滞在を終えケニアに帰国した後は、塩尻さんが運営するテンリ小学校に就職。テンリ小学校で児童と関わるときには、自分勝手な行動をしない、他の人のことを考えて生きることが大切など、教えのエッセンスを伝えることを心がけていたという。
2021年に副校長に就任。現在は副校長としての席を残しながら、再び来日し千葉大学に通っている。
1999年に開設。アフリカ児童教育基金の会(ACEF)が経営する診療所スタッフのための託児所を前身とする。将来のケニアを背負って立つ指導者の育成をモットーとする。
キリスト教の家に生まれながら
現在は天理教を信仰しているオスカーさんだが、元々はキリスト教の信者だったという。そんな彼が感じる天理教の魅力について聞いてみた。
「お道の人は、教えに沿った生き方を毎日意識していると思います。生活の中で教えから離れられないほど、天理教の生き方を繰り返し教えられているのではないでしょうか。例えば、悩んでいる人や困っている人が周りにいれば、なんとかたすかってもらいたいと考えていたり、日常生活の中に信仰が生きていると思います」
また、好きな天理教の教えは「かしもの・かりもの」だというオスカーさんは、こんな話を教えてくれた。
ある日、オスカーさんは、SNSで人種差別発言を批判する投稿を見つけた。投稿者は、人の本質を見るためには、見た目だけでなく、考え方や普段の生き方を見なければならないと訴えていた。オスカーさんは投稿者の主張が「かしもの・かりもの」の考え方に似ていると感じ、大変感銘を受けたという。
「かしもの・かりものの話によれば、大切なのは心の遣い方で、外見ではありません。ひどい行動をすればひどい人になるし、優しい心でいれば、優しい人だと言われます。そこに見た目は関係ありません。かしもの・かりものの教えが分かっていれば、他の教えも自然と身につけることができると思います。『人たすけたらわが身たすかる』と教えられますが、そのためにはかしもの・かりものの話を心に治めることが肝心なのだと思います」
こうした話が分かるようになったのも「塩尻先生が毎日のように繰り返しお話を聞かせてくださったおかげ」だという。
つらいことの後に訪れる幸せ
最後に、オスカーさんにとってお道の信仰とは何か聞いてみた。
「自分の行動で、他の人が喜んでくれることです。自分が何かをして他の人を喜ばせると、その幸せは自分に戻ってきます」
「信仰生活は、幸せなことばかりではありません。信仰したから毎日良いことばかりになると思っていたら、つらいことが起きたときに信仰から離れてしまうでしょう。でも、つらいことを信仰で乗り越えた先には必ず幸せが訪れると思います」
ケニアの大地にも、着実にお道の信仰が根付いているようだ。
(文=深谷陽道 写真=南笑平)
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