第3回 ありのまま、全てさらけ出して
「頑張るお嫁さんたちを応援したい」。そんな思いから、河原町大教会につながる若いお嫁さんたちの集まり「あゆみ会」によって創刊された季刊誌『YOME-YOME』。現在、発行部数1万部を超え、教内外を問わず多くの〝若嫁〟たちに愛読されている。お道の人には〝にをい〟がある――。第3回目の〝薫り人〟は、同誌編集長を務める深谷寿美子さん(37歳・河原町大教会)だ。
三月末、深谷さんは詰所の一室で『YOME-YOME』のオンライン会議を行っていた。パソコンの画面には、〝若嫁〟10数名のフレッシュな笑顔が並ぶ。
会議中、編集メンバーの一人が意見を発表すると、すかさず深谷さんが言う。
「さすがAさん、めちゃくちゃ素晴らしいこと言ってくれますね。やっぱり、今日の『FRAGRA』の取材に向けて髪を切ってきたほどあるわぁ(笑)」
ドッと笑いが起き、場が和む。その後も彼女の明朗快活な人柄が潤滑油となり、意見交換が活発に展開された。そして、嫁としての近況や悩みを共有する時間になると、深谷さんは「そうやんなぁ」と相づちを打ちながら真剣に耳を傾けた。
編集メンバーの若嫁Bさんは言う。
「いつも『会いたいなぁ、話したいなぁ』って思える。それが寿美子さんの〝薫り〟です」
「本気でやってみいひん?」
大教会の女姉妹の長女として生まれ、養子娘の立場が最大のコンプレックスだった。
「だからこそ、お嫁さんたちの気持ちに寄り添いたいと思っていましたが、全くできていなかったんです・・・・・・」
3年前、「あゆみ会」に参加していたメンバーが突如、教会を飛び出して音信不通になった。その後すぐに、夫婦関係や嫁姑問題で行き詰まった〝若嫁〟たちが、深谷さんの元へ続けざまに駆け込んできた。彼女たちと寝食を共にしながら、夫・廣大さん(35歳)と共に〝心のケア〟に徹した。
「彼女たちとは、それなりに話しているつもりでした。けれど、みんな教会の嫁という立場上の義務感で会に参加していたんです。お互いに事情の悩みでどん詰まりの状態やのに、うわべだけで本音で語り合っていなかった。『あゆみ会』は〝形だけの会〟になってたんや・・・・・・って、めちゃくちゃショックでした」
こうした出来事を受けて、深谷さんは同会のメンバーとより深く話し合おうと努めた。さらに、お互いの事情の治め方について話し合いを重ねた結果、たどり着いた〝究極の解決方法〟は「主人を立てる」だった。
「私をはじめ、事情を抱えている多くのお嫁さんたちは、夫婦で男女の立場が逆転していることが分かったんです。例えば、物事を判断するときに、主人から何か提案されても、嫁が『それよりもこちらがいい』と否定して主導権を握ってしまう。最近の男性は優しいから萎縮し、自信を無くす。しかも物事はうまく運ばず、結果的に嫁にとっても全然プラスじゃない。まずは主人を立てて喜ばせ、毎日を心地よく過ごしてもらうことが、ひいてはお嫁さんの幸せにつながるのでは――と思ったんです」
といはいえ、当初、「あゆみ会」のメンバーの中でも、「それは時代に沿っていないのでは」「私の方がシンドイのに、夫を立てるなんて無理」といった反応も少なくなかった。
深谷さんは、お道の「男は天、女は地」の教えを踏まえつつ、「『主人を立てたら運命が変わる』とよく聞くけど、これを騙されたと思って、みんなで本気でやってみいひん? 」と働きかけた。
各自がその実践を振り返る場として『YOME-YOME』がスタート。第一号の巻頭言で、深谷さんは文章をこう締めくくっている。
「『主人を大切』にすれば家庭が変わる! 世界が変わる! 運命が変わる! そんな夢のような体験、一緒にしてみませんか?」
〝ここぞの一言〟を大切に
あゆみ会の「主人を立てる」という〝ミッション〟がスタートした。
夫より朝早く起きる、朝夕に手をついて夫に挨拶する――など、各自が思い思いの実践に挑戦した。その後、親子関係や主人の仕事ぶりが良くなったり、子供の病気が治ったり、さらにはめでたく懐妊するなど、不思議なご守護が相次いだ。
こうした変化は『YOME-YOME』の紙面で特集され、大きな反響を呼んだ。
「主人を立てる〝スゴさ〟を、今、みんなが体感し、確信しています」と強調する深谷さん。
「思い返せば、私自身も信仰的に『ここぞ!』という場面で、主人の提案に心を合わせるようにしてから、たすけていただくようになりました。一方、自分が正しいと意地を張ると、なぜか物事はうまく運びません。〝ここぞの一言〟を主人に気兼ねなく言ってもらえるためにも、日々のちょっとした心づかいが大切だとあらためて実感しています」
編集部員Bさんはしみじみと語る。
「日々の実践と文章を書くことによって、気づきと反省が繰り返され、夫に対する感謝の心が大きくなって夫婦関係が良くなりました。『YOME-YOME』の編集に携わっていなかったら、いまの私はありませんし、私たち夫婦はどうなっていたか分かりません」
ありのままを書く
『YOME-YOME』の編集長は、河原町の〝若嫁〟たちにとってどんな存在なのか――。会議の後、編集メンバーに質問した。
編集部員Cさんは涙ながらに語る。
「若奥さんは、私たちをたすけたいという強い信念で、誰よりも夫婦の悩みをさらけ出して記事にしてくださっています。ほんと申し訳ないくらい。本当に大きな親心だと思っています・・・・・・」
深谷さんは毎号、夫婦の間で起きた出来事や悩みをつつみ隠さずに綴っている。
「みんなが本音で話せる『あゆみ会』になるためには、まずは私が『悩みを聞いてもらいたいなぁ』と頼ってもらえる人になることだと思っています。そのためには、普段から自分の悩みや弱みを全てさらけ出して、文章にも〝ありのままを書く〟ことが大切だと感じています。それが共感を生み、相手の懐に入れて、おたすけにつながると信じています」
その後も、深谷さんの人柄についてメンバーは涙ながらに語っていく。
「どんな人にも隔てなく、心を配ってつないでくださっている」「その人の立場になって、言いにくいこともしっかり伝えてくださるので、いつも相談したい大きな存在です」
「ちょっと皆さん、真剣に答えすぎちゃう? ごめんなさい、ティッシュ取ってくるわ」
目頭を押さえ、深谷さんは席を立った。
◆
「主人を立てるお手本は、教会長夫人の母です。スゴすぎて敵いません」
こう話す深谷さんには、将来教会を預かる夫婦として、夫・廣大さんと共に抱く〝夢〟がある。
「河原町大教会を、全教で一番『お嫁にいきたい大教会』にするのが夢です。そして、嫁いだ後も『河原町に来て良かったなぁ』と思ってもらえる教会でありたい。そのためには、まず私がしっかり主人を大切にして、最高の夫婦になれるように努力していきたいです」
(文=石倉勤、写真=廣田真人)
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