家族のためなら人はここまでできる――2024年の夢プレゼンの振り返り④

2024年8月25日(日)、南右第二棟4階の陽気ホールにて、天理教青年会としては約3年ぶりとなる「夢プレゼン」が開催されました。今回のイベントでは、多くの若者たちが集まり、新たな夢と希望を共有しながら、前向きな未来を築くための素晴らしい時間を過ごしました。

今年の夢プレゼンの特筆すべきポイントは、プレゼンターごとにチューターが用意され、彼らと二人三脚でプレゼンテーションを仕上げたことです。

本記事では、チューターたちの当時の心境を振り返り、その赤裸々な思いを語ってもらいます。どんなドラマがあったのか、ぜひお楽しみください。


今回、話を聞いたのは

チューター
  • 名前:伊勢谷和海(青年会本部委員・東海分会)

:10年前、私は「教会長後継者は夢を諦めなければならない」と思い、何かを振り払うかのように、にをいがけ・御用・アルバイトに明け暮れていた。しかし、自分のできることを主体的に求める仲間たちに感化され、私も夢を描けるようになった。そして、気づけば主体的に信仰を求める自分がいた。

「夢」のポテンシャルを知っていたからこそ、チューターの御用をいただいたときはたまらなくうれしかった。今回はプレゼンター・小向一範さんと歩んだ1カ月を通して、さらに深まった「夢」の可能性について綴りたい。

初対面で感じた「熱」

7月23日、初対面の日――。小向さんの人柄を知りたくて、天理市内の居酒屋にお誘いした。

「自分の店を持ちたい」という料理人らしい夢を語る小向さん。淡々とした口調の端々に、大人しい雰囲気の裏にあるたしかな熱量が垣間見えた。調理師専門学校に進学したくて両親に土下座したこと、仕事では自らの意見をきちんとぶつけること、日々料理を探求し続けていること。4時間以上語り合い小向さんの素顔を知ったことで、伴走していくうえでこの「熱」が必ず魅力になると確信した。

小向さんは専門学校を卒業後、第38母屋のシェフとして勤務。結婚から数年後、本部勤務を退職して、当時夢だったミシュラン店に就職した。夢を叶えた小向さんだったが、激務で家族と過ごす時間がなくなり、夫婦共に疲弊した生活が続いた。そんな矢先、幼い次女がストレスで失語症を発症。そんな娘の姿に、小向さんは夢を諦め、10年前に38母屋に復職した。

そんないきさつを聞いた私は、「夢を諦めたストーリーが青年会層に刺さりそうだな」「明確な夢が決まっているから進めやすいな」と夢プレゼンに向けて楽観的な見方をしていた。

こどもおぢばがえり期間中、お互いに忙しい日々を通っていたが、小向さんは学生生徒修養会高校の部でも宿舎である第38母屋の厨房担当として引き続き受け入れをしていた。コミュニケーションを取る時間が持てないなか、本番を2週間後に控えているにもかかわらず、私は「チューターとして彼のことをきちんと理解している」と、どこか安心し切っていた。

そんな考えを一変させたのがチューターの相談役であった番正委員だった。現状報告をするなかで、「小向さんの店は何を提供するんですか?」と聞かれた。和食か洋食なのか、どんな雰囲気の店なのか、ターゲットは誰なのか……。言葉に詰まり、全然寄り添えていないことに気づかされた。「もっとできることがある。まだまだ彼の良さを引き出せる」。心のスイッチを押してもらい、こまめな電話とLINEのやり取りを始めた。

夢のベースにある家族の存在

小向さんが再び夢を持ったのは、息子さんたちとの会話がきっかけだった。

「大人になったら何になりたいの」と聞いたところ、長男が「お父さんがお店を開いたら、料理を運ぶ仕事がしたい!」と言い、それを聞いた次男が「僕もお父さんのお店のお手伝いがしたい!」と盛り上がった。

自分の夢の上に子どもたちの夢が重なっていることに大きく心が動いたという。

「自分は夢を諦めたのに、子どもたちの夢ばかり応援しているのがダサく思えたんです」小向さんがそう話してくれたとき、あることに気がついた。

小向さんの「熱」は大きな魅力だが、一番の核は「子どもの存在」があるということだ。大事な子どもだから、夢すらも諦めることができた。

大事な子どもだから、彼らの夢ばかり求めている自分を恥ずかしく思った。

夢の分岐点には、常に家族の存在がある。

決して多くを語らない小向さんだからこそ、時間をかければかけるほど魅力があふれ出てきた。

8月23日夜、翌日のリハーサルを前に、プレリハーサルを東海詰所で行った。

原稿も完璧に作り込み、パワーポイントも改良されて、本番さながらに語ってもらった。しかし言葉を選ばず言えば「まったく刺さらないプレゼン」だった。エピソードは素晴らしく、夢も「ストレスを抱えた人の癒しの空間になるワインバーを開く」と明確なのに、なぜか刺さらない。

撮影した動画を二人で何回も見直していたとき、ふと失語症になった次女の当時の様子が気になり聞いてみた。すると、実は生まれつき心臓に穴が開いていたこと、毎日の必死のおさづけで御守護をいただいたこと、娘を救うためなら夢を諦められたことを話してくれた。パワーポイントには、当時の次女の写真が載せられており、私も幼い子を持つ親として涙が出そうになった。

「子どもの身上で夢を諦めた」という一言ではとても片づけられないエピソードが、秘められていた。この日は時間が許す限り語り合った。底知れぬ料理への愛情、家族への思い、本部勤務への感謝など、全てが彼の魅力として昇華していった。

体温と体重が乗った言葉の理由

8月24日、リハーサル直前。改良された原稿は贅肉が削がれたようにスッキリとしていた。あとは舞台で表現するのみだ。

本番さながらの演出で1番手として登壇した小向さんだったが、全く良さが伝わらない。内容が頭に入り切っておらずたどたどしい。何より制限時間を4分もオーバーしていた。

落胆の表情で控室に戻ったが、下を向いている時間はない。ホワイトボードを使って1時間以上話し合った。できれば本番当日の朝に東海詰所で練習をしたかったが、早朝から勤務があり断念。不安そうな私に、小向さんは「今晩、家族の前で猛練習します」と伝えて帰路についた。

8月25日、夢プレゼン本番。控室で過ごす小向さんの表情はどこか吹っ切れていた。昼食や談笑をしつつ、二人だけで最終リハーサルを行った。そのときの自信に満ちた表情が忘れられない。不安は感じられず、制限時間通りにプレゼンを終えた。なにより、言葉に体温と体重がしっかりと乗っていた。万感の拍手を送ると、「昨晩、家族の前で練習をしました。そしたら次女の身上の話で涙が止まらなくて。家族も一緒に泣いていました」と述懐してくれた。

本番直前、奥さんと子どもたち4人が陽気ホールに駆けつけた。小向さんにとって最高の応援団だ。

夢プレスタッフが作り上げる最高の演出の中、いよいよ登壇。1カ月に亘る小向さんの挑戦が最終章を迎えた。

誠の挑戦者とは

家族のためなら人はここまでできるんだな――。

舞台袖でプレゼンを聞きながら感じた素直な気持ちだ。家族のためなら夢すらも手放せる。家族のためなら諦めた夢にも再挑戦できる。家族という存在の尊さを、彼の背中が語っていた。まさに「熱」がこもっていた。

同時に、昨晩の小向家を想像した。家族の前で夢を語れる。子どもの前で子どものために涙を流せる。父としてそこまで裸になり、子どもたちのために心を動かす。その姿こそ、夢プレゼンのテーマである【誠の挑戦者たち】の姿だと確信した――。

「夢はあった方が良い」。私はそう感じていた。人生が主体的になり、心を豊かにしてくれるのが夢だと確信している。しかし、今回チューターとして小向さんを側で見るなかで、「夢は人の存在があって成り立つもの」だと分かった。

夢の先には「誰かの喜びや幸せ」が紐づいている。だから夢を持つ人は強く、輝ける。

そして、夢には「誰かの支え」が土台になっている。だから夢を持つと人に感謝ができる。

小向さんには彼を支える家族がいて、夢の先に笑顔になってくれる人がいた。それをしっかりと理解して裸になって表現してくれた。私の言葉もしっかりと受け止めて、伴走させてくれた。彼の姿にしっかりと誠が刻まれていたからこそ、結果として優勝というご褒美がついてきたように思う。

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