奈良ソフトボールアカデミー代表/原田孝勇さん×伊勢谷スポーツ俱楽部【後編】 「スポーツは楽しい!」

野球の世界からソフトボールの指導者に転身した原田さんは、選手に「無理しないように」と伝えることを大切にしている。いまだに厳しさが先行しがちなスポーツの世界で、怒ることなく、ソフトボールの楽しさを感じてほしいとの考え方にこだわって指導を行う原田さんの背景に迫る。

子ども達の受け皿として

―ソフトボールの指導を始めて、野球との違いなどは感じましたか?

野球に比べてベース間やバッテリー間の距離が短く、スピード感の溢れるスポーツだと感じました。高校球児よりも捕球からの送球が早くてカッコいい選手がいる一方で、体を上手に使えていなかったり、モチベーションの低い選手がいたりしたことが気がかりでした。とはいえ、長所を伸ばしたことでレギュラーになる選手もいたので、アプローチする点は野球と同じだと感じました。

一方でバントの違いには驚きましたね。野球は、ランナーを進めるためにサードとファーストのどちらに捕球させるか、といったことを考えますが、ソフトボールは塁間距離が近いのでサード、ファースト、ピッチャーの中間にバントをする必要があります。また、野球はバントのときに打席の前方に立つことが多いですが、ソフトボールは打席の後方に立つんです。そういう違いが面白かったですね。

―どのような経緯で「奈良ソフトボールアカデミー」を立ち上げたんですか。

監督就任3 年目の2 020 年、旭日大教会の岡本会長さんに出会ったのがきっかけです。旭日大教会が運営している小学生チームの「旭日ソフトボールクラブ」と天理大ソフトボールとの合同練習や選手の指導を依頼されたんです。結局、コロナで実現しませんでしたが、その翌年、岡本会長さんから中学生対象のソフトボールクラブチームを作りたいと相談されました。奈良県には中学生のクラブチームがなく、中学校にソフトボール部がない選手たちの受け皿がなかったんです。奈良県にクラブチームができればソフトボールがしたい選手を高校、大学へつなげられると思い、立ち上げからお手伝いしました。

―なぜクラブチームではなくアカデミーという名称なんですか。

最初は「天理ソフトボールクラブ」という名称を予定していましたが、「『奈良』の方が幅広い方に興味を持ってもらえますよ」、「アカデミーだと試合より練習がメインの印象になって良いですよ」とアドバイスをしてくださる方がいたんです。

結果、「アカデミー」にしたおかげで練習をする場所だと認識されています。実際に年間を通して試合は数回しかしていません。大会で勝つことを目的にすると、熱量が上がりすぎて練習についてこられない選手がでてきますし、無理をしてケガをする可能性が高まります。練習に専念できるのはとても有難いですね。

取材当日は、なんと東京五輪ソフトボール金メダリストの「あつみねコンビ」こと渥美万奈さん、峰幸代さんが指導に来られた!

支えてもらっている実感

―運営費はどうしているんですか。

道具の購入やグラウンドの環境整備にはスポンサーさんのお金を使わせていただいています。専用グラウンドはないので、天理市内の空いているグランドや天理大学のL 字グラウンドを使わせてもらっています。選手たちには「お貸しいただいているグラウンドだからしっかり整備をしよう」と伝えて、アカデミーで購入した整備用具や防音ネットなどを置かせてもらっています。アカデミーは日曜日しか使わないので、少しでも恩返しになればと思い、普段は先方に使ってもらっています。
現在は約50 社のスポンサーさんについていただき、とても有難いです。

―5 0 社はすごいですね!

中には天理本通りのお店もあります。選手はスポンサー名の入ったT シャツを着用して知っていたので、あるとき、練習の帰りにその店舗に寄って「いつもありがとうございます」とお礼を言ったことがあったんです。後日、スポンサーさんから電話があって、喜びを伝えてくださいました。選手がそんな素直な思いを持って行動してくれて嬉しかったですね。

先日、「スポンサー感謝祭」を開催しました。スポンサーさんにグラウンドに来てもらい、練習を見学したり、トスバッティングを経験したりしてもらいました。選手たちは、この人たちがサポートしてくれているんだと実感できたことを喜んでいましたね。

無理をしない重要性

―アカデミーで大事にしていることはなんですか。

好きなソフトボールを続けるために、自分の体について知ってほしいということです。現在登録している20 人中17 人は、中学校のソフトボール部に所属しています。土曜日に部活で投げ込みの練習をすると日曜日は肩が痛いはずなので、無理して投げなくていいよと伝えます。もし、勝つために練習していたら、痛くても練習しなくてはならないと考えますが、それだとケガをしやすくなってしまいます。選手たちにはソフトボールを続けるために自分の体を大切にしてほしいし、もっと体に興味を持ってもらえるようなアプローチをするように心がけています。

―その考え方に至った経緯はなんですか?

監督時代、入部した時点ですでに肩を痛めて投げられなくなった選手が数人いました。理由を聞くと、高校時代のチームは人数が少なく、試合のために痛いのを無理して投げていた、と言うんです。痛みは体からの赤信号なので、無理しなくていい、無理しない方がいいと伝えています。

―スポーツ界には痛いと言いづらい空気感が残っているように感じます。

それでも無理しない方がいいんです、絶対に。選手たちから痛いとは言いづらいと思うので、私から聞くようにしています。例えば昨日の練習内容を聞いて、ノックでの送球やピッチングで投げ込みをしていた選手には、「じゃあ今日は肩、肘が張ってるよね、投げなくていいよ」とこちらから声をかける。何ヶ月かすると分かってくるので、最近は選手から言ってくれるようになりました。

もちろん部活の練習でも無理をしてはいけないので、痛みがあるときは顧問の先生に言いなさいと伝えています。

Tシャツには5 0 社以上のスポンサー名が刻まれている

スポーツの楽しさを感じられるように

―アカデミーの今後の目標はありますか?

奈良県のソフトボールのレベル向上のために、スポーツ少年団(小学校)と中学校のソフトボール部の先生がきちんとつながりをもってほしいと思います。そうすると、小学生が中学校でもソフトボールを続けるイメージがもてる。また中学校の先生は高校のソフトボール部と合同練習をして、高校でも続けるイメージを持たせてあげてほしいですね。高校から大学も同じです。

アカデミーでは積極的に小学生や高校生と合同練習をして、その橋渡し役のようになればいいなと思います。

―話を聞いていると、原田さんは選手の内面から湧き出るものを大切にされていますね。

スポーツは楽しいものです。ソフトボールをやってみたいと思ったときの感情をできるだけ落とさずに練習に来てほしいと思いますし、すごく楽しかったと思ってもらえるように、声かけや練習を工夫しています。

私が読んだ本の中に「エモーショナル・タンク」(感情のタンク)という考え方がありました。モチベーション、やる気、また楽しいという感情で選手のエモーショナル・タンクを満たしてプレーさせてあげたいし、グラウンドに来てもらいたい。怒るのは人を傷つけたり、あるまじき行為をしたときだけ。モチベーション、やる気が高まる言葉がけやアプローチを考えてエモーショナル・タンクを減らさないように心がけています。完璧にはできないし、言い方を間違えるときもありますが、これは意識しないとできないことです。私は選手を育てるうえでこれが一番大事だと思っています。

合同練習を終えて、あつみねコンビ、天理高校ソフトボール部と

伊勢谷のふりかえり

「悩んでいるときに相談すると、原田さんが的確にアドバイスしてくれるんです。」
アカデミーの魅力を質問したときに、ある選手がそう答えてくれた。

的確に指導できる専門知識以上に、悩みを気軽に相談できる雰囲気や関係性に心が引かれた。選手への声かけやアプローチを意識してきた原田さんの日々の積み重ねのすごみを感じた。

私自身、青年会でお育ていただき多くの学びや経験をさせてもらった。当然、分会活動や教会生活で仲間や信者さんに還元したいと思うが、人から頼ってもらえる自分でないと寄り添うことすらできない。

自分の「あり方」がいかに大切かを学んだからこそ、日々の心遣いにしっかり向き合っていきたい。

(文=伊勢谷和海 写真=永尾泰志)


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原田孝勇さん HARADA TAKAO

1983 年、天理市生まれ。天理中学校から野球をはじめ、天理高校では軟式野球部に所属して主将として全国大会に出場。天理大学では選手兼主務として硬式野球部に所属。在学中、NPB 、独立リーグのセレクションを三回受験する。卒業後、韓国釜山に言語留学を経て、2 3歳でU リーグ(沖縄独立リーグ)の選手として活動。退団後、天理に戻り天理コスモ、天理高校軟式野球部の外部コーチを経て、3 2 歳で天理大学ソフトボール部外部コーチ。現在は韓国語講師の傍ら、奈良ソフトボールアカデミーの代表、ヘッドコーチをつとめている。

伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI

1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。

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