第10回 老若男女が集う、憩いの場所に

〝モーニング文化〟の息づく街、岐阜・各務原(かかみがはら)市内に昨年3月、新たなカフェがオープンした。臼井教継(うすい・のりつぐ)さん(38歳・上恩(じょうおん)分教会長後継者)と妻の瑠珠(るみ)さんが夫婦で営む「Caf John(カフェ・ジョン)」は、多いときにはモーニングのみで一日40人が訪れるという人気店。幼児から90歳を超える高齢者までが集う安らぎの場として、地域住民を中心に広く愛されている。

趣味のDIYを生かして

愛知と岐阜の県境を流れる一級河川・木曽川。その北側に位置する各務原市は、古くは中山道の宿場町として栄え、いまでは航空機産業の街、名古屋のベッドタウンなどとして知られている。

名鉄各務原市役所前駅から5分ほど歩くと、住宅街の一角にCafe Johnの建物が見えた。北欧のカフェを思わせるオシャレな玄関がひときわ目を引く。店内に入ると、木のぬくもりあふれる家具が並んでおり、漆喰の白壁が落ち着いた雰囲気を漂わせる。

白のTシャツ、短パンという爽やかな出で立ちで迎えてくれたのは店長の教継さん。あいさつを終えると早速、店内を案内してくれた。聞けば、この建物の外装や内装はすべて教継さんの手作業によるものだという。

「実はこの建物、教会の離れを3年ほどかけて改装したものなんです。趣味のDIYを生かそうと軽い気持ちで工事に取りかかり、昨年にようやく完成しました」と笑顔を見せる。

不思議な出来事が相次ぎ

普段は子供向けの英会話スクールで講師を勤める教継さん。その傍ら「いつか自分のカフェを持つ」という目標に向け、数年前に近所のカフェでアルバイトを始めた。一方、瑠珠さんは結婚前にケーキ屋で働いており、お菓子作りは得意。将来は「カフェを開業したい」と思っていたという。

そんななか、近所に暮らす高齢女性が「年を取るにつれて外出するのがつらくなってきてね。私たちでも気軽に出入りできるような場所が近所にあればいいんだけど。天理教さんは部屋がいっぱいあるんだから、誰でも集えるような場所を提供してもらえたらうれしい」と、ふと漏らした。

「教会の離れが空き家になって30年近く経ち、人が住めるような状態ではありませんでした。その女性の言葉をきっかけに、建物を綺麗にすれば人が集える場所として再び使えるようになるのではないかと考えました。当時、新型コロナウイルス感染症の影響もあって家にいる時間が多くなっていたので、いっそのこと本格的に改装しようと思い立ちました」

一昨年2月、まず内装工事に取りかかった。梁を剥き出しにして天井を高くし、内壁一面には漆喰を塗った。天井を解体した際に出た角材は、壁のデコレーションに再利用した。

電気や水道の工事は、専門の資格が必要となる。内装が進むなか、教継さんの取り組みを聞きつけた親戚が、キッチンやトイレといった水回りの工事のために駆けつけてくれた。また、偶然に再会した地元の友人が電気工事をしていたことから、電気の配線などをすべて請け負ってくれた。

「オープンに向けて本格的に動き出すなか、必要なタイミングで必要な人が向こうからたすけに来てくださいました。ほかにも、知人からテーブルやいす、キッチンの作業台、子供のオモチャなどの物品を頂くなど、本当に不思議な出来事が相次ぎ、成ってくることをただただ喜ぶ毎日でした」

一昨年の年末までに外装やトタン屋根などの塗装を終え、昨年3月2日にCafe Johnがオープンした。店のカウンターには、開店を祝う花束がズラリと並んだ。

「自分たちが行きたい店」に

教継さんと店内を回り終えると、続いて瑠珠さんが料理を提供してくれた。Cafe Johnで提供しているモーニングセットだという。木のプレートには、瑠珠さん手作りのシフォンケーキ、サラダのほかに、プリンのようなものが入った湯呑みが載っている。

瑠珠さんに尋ねると、「この湯呑み、実は茶碗蒸しなんです。岐阜では、茶碗蒸しがあると〝豪華なモーニング〟と言って喜ばれるんです。料理の得意な義父(臼井道憲・同分教会長)から教わったレシピを再現して作っています」と教えてくれた。

臼井夫妻の共通の趣味はカフェ巡り。取材日の朝も、家族で近所のカフェに出かけたという。「東海圏には、朝食は喫茶店で食べるという〝モーニング文化〟があります。どこの喫茶店にも安い軽食メニューが豊富に用意されているので、それぞれの魅力にふれるのが楽しくて。その中で気づいたことを、自分たちの店にも生かしています」

〝競合〟がひしめく街で、Cafe Johnの特徴の一つとなっているのが「子連れ大歓迎の店」。「カフェには意外と『小学生以下お断り』のお店が多いんです。Cafe Johnでは、私たちと同じ子育て世代にも気軽に来てもらえるような工夫をしています」と教継さんは言う。

Cafe Johnの2階にある3部屋はすべて個室となっており、それぞれに遊具が備え付けられている。こうしたアイデアは、「自分たちが行きたい店」にしようと反映させたものだという。「同じ思いの方が多いのか、個室の予約は子連れの方で埋まる日も少なくありません。店に来てくださった方が喜んでくださると、こちらもうれしくなります」

教会を輝かせるための挑戦

Cafe Johnの客層は幼児から90歳を超える高齢者までと幅広く、多いときはモーニングのみで一日40人が訪れる。同じ地域に暮らす人々をはじめ、Cafe JohnのInstagramを見て名古屋や他県から訪ねて来る人も少なくない。

そうしたなか、同教会につながる92歳の女性信者が知人を誘ってたびたび来店するようになった。その女性は「教会に参拝する楽しみが増えた」と喜んでいるという。

ほかにも、近所に住む高校3年生の青年が店先で教継さんに声をかけてくれたことも。数年ぶりに再会したその青年は、少年会員の頃は「こどもおぢばがえり」や「教会おとまり会」に参加していた。話の中で、来春から東京の学校に進学することを報告してくれたという。

「私たち夫婦が地域の方々と交流を持てているのは、この地で信仰してきた親々が信仰の種をまいてきてくださったからこそ。自分たちの好きなことや得意なことを生かそうと始めたカフェですが、一方で地域において教会を輝かせるための挑戦の一つにもなっています」

臼井夫妻に今後の目標を聞いた。

「教会で夏祭りやマルシェをしたり、シェアスペース、学童保育、子供向けお菓子作り体験、養護施設児童のカフェ招待など、やりたいことがまだまだあります。それらを一つひとつ夫婦で実現していきたいと思っています。

お道の信仰を伝えることはもちろん大事だけど、その手前で私たちという人間を知ってもらう必要があると思います。そのきっかけが、私たちにとってはカフェであり、好きなことを通して訪れてくださる人たちに喜んでもらう。そんな〝薫り 〟をきっかけに、地域の方に天理教をより近い存在に感じていただけたらと思っています」

Cafe JohnのInstagramはコチラ

文=中西一治、写真=永尾泰志

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