第8回 心の矢印を、自分から神様へ

「人の役に立つ仕事がしたい」――物心つくころからそんな思いを持ち続ける〝はたらくようぼく〟がいる。木原きはら宣仁のりひとさん(35歳・垣生はぶ分教会)は、親里で学んだのち、大手アパレルメーカーに就職。店舗リーダーとして活躍し、一昨年ファイナンシャルプランナーに転身した。今回の〝薫り人〟は、有名企業で培ったノウハウや経験を生かしながら、人々の暮らしに寄り添う木原さんに話を聞いた。

11月初旬の親里。紅葉で色づく神苑を、シックな装いの男性が歩いていた。コーデュロイのジャケットとパンツ、白色のタートルネックのカットソーを身にまとう木原さんだ。

「今日のスタイルは、白のカットソーで清潔感を、グレーのコーデュロイは深まる秋をイメージしています。プロフィールにアパレル出身と載せているので、見た目でダサいと思われないように気をつけています」と、はにかみながら話す。

「普段からカジュアルなスタイリングを心がけ、初対面でも親近感を持ってもらえるよう心がけている」と言う木原さん。相手への細やかな気づかいは、育った環境や仕事を通じて培われたという。

行動を変えたら、景色が変わった

本部勤務者としておぢばに伏せ込む両親のもと、3人きょうだいの次男として生まれた。幼稚園から大学まで親里で学び、信仰に満ちた環境に育った。

「幼少のころはかなりの人見知りで、内向的でした。いつも仲の良い友達とばかり話していて、自分から人に声をかけることはできませんでした」と振り返る。

転機となったのは、天理高校1年の春休みに参加した「春の学生おぢばがえり」。友人に誘われ、奈良教区学生会の集いに参加した。その中で、班付きスタッフの姿が強く印象に残った。

「誰に対しても笑顔で、分け隔てなく接するスタッフの態度に驚きました。『どうしたらそんな人になれるのだろう』と、春学の最終日に班付きスタッフに思いきって話しかけました。そのときもらったアドバイスは『自分から声をかける』でした」

新学年になると、そのアドバイスをすぐ実行に移した。授業中、前の席の人からプリントが回ってくると、受け取るときに「ありがとう」と言葉を添えるようにした。

そうしたなか、ある〝変化〟があった。

「自分から周囲の人たちに声をかけたり、興味のあることに挑戦したりしている中で、周りの人から話しかけられる機会が多くなっていました。自分の行動を変えることで、目の前の景色が変わるということを実感しました」

仕事をするとは、人を喜ばせること

高校を卒業後、天理大学に進学した。学業の傍ら、奈良教区学生会の活動に積極的に参加し、仲間と共に信仰を育んだ。3年生のときには、委員長に頼まれて教区学生会の副委員長を務めた。

あるとき、学生会の友人と話す中で、卒業後の進路が話題になった。「どんな仕事が向いていると思う?」と木原さんが尋ねると、友人からアパレルの仕事を勧められた。

早速、天理市内にある服のセレクトショップでアルバイトとして働き、その翌年から、大阪市内にある大手アパレル企業に勤務するようになった。

「最初は短期雇用でしたが、社員が求めていることを自分なりに考え行動するうちに、仕事ぶりが評価されたのか長期契約を結ぶことができました。この経験を通して『仕事をすることは人を喜ばせることであり、まわりまわって自分の喜びとして返ってくる』と思うようになりました」

どんな中も、自分に矢印を向ける

2011年、さらなるステップアップを目指し、セレクトショップ業界の最大手に正社員として転職した。

「当初は店頭に立ち、個人の売り上げも順調でした。ところが、いくら頑張っても上司に認めてもらえませんでした」と振り返る。

「ショップでは、店員からお客さんに声をかけることがよくあります。そうした声かけの上手な同僚に対して『話しかけるタイミングがうまい』と思うだけでした。あるとき、上司から『なぜ接客を自ら追求しないのか。そもそも他責的な考え方なのがいけない』と叱責されたんです」

「すべてはお客様のためにある」を社是とする同社では、「お客様の役に立つ」ということを仕事の根幹とする。そのため、接客力や売り上げの向上もさることながら、「心のありよう」が高く評価されるという。

「社会人としての心構えや目標の立て方といったビジネスの基本をいちから叩きこまれる中で、社会の厳しさもそうですが自分の甘さを痛感しました。より成長するためには、何事も責任を持つという気概が大事だと学びました」

その後、キャリアを重ねる中で、新店舗の売り場づくりや人材育成などのマネージメントを任されるようになった。大阪の都心・梅田に位置するグランフロント大阪や阪急三番街の店舗では、メンズフロアの責任者を務めた。

「人の上に立つ役職に就き、より密に人と関わることが増えました。その分、さまざまな課題や問題に直面しましたが、どんな中も自分に矢印を向けて行動すれば、おのずと結果がついてくるという自信を持てたと思います」

教会は〝心たすかる場所〟と実感して

2021年、長年勤めた会社を退職し、ファイナンシャルプランナー(FP)として再出発した。きっかけは、「人の役に立つ仕事」を追求するなか、知り合いのFPに転職の相談をしたことにあるという。

「さまざまなアドバイスを受ける中で、営業スキルを生かすことができて、一人ひとりに合ったライフプランづくりのお手伝いができる仕事はFPだという結論に至りました」

FPとして仕事を始めて間もないころだった。奈良教区学生会の後輩の紹介で、青年会本部主催の「はたらくようぼくの集い」に参加することになったのだ。その後、オンラインで行われた同集いに班付きスタッフとして参加した。

「久しぶりにお道の行事に参加して、お道の方々とのつながりのありがたさをあらためて感じました。はたらくようぼくの集いの参加者は、普段から教会とのつながりを持っている人ばかり。教会から遠のいていた自分自身を反省し、いま一度信仰を見つめ直そうと思ったんです」

ほどなくして、木原さんは母の自宅の講社祭に参拝した。後日、田村久德・垣生分教会長とひざを突き合わせ、自身の来し方を話した。すると田村会長は、「今の仕事はつなぎが大事。一度、教会へ参拝においで。きっと良い方向につながっていくよ」と優しく諭した。

昨年11月、愛媛県新居浜市にある垣生分教会に、母と共に参拝する木原さんの姿があった。「会長さんはとても喜んでくださり、私たち親子を温かく迎えてくださいました。その親心が本当にありがたくて」

教会に参拝して以降、〝不思議〟が相次いだ。お道の知り合いなどを通じて、仕事の依頼や相談が次々と舞い込むようになったのだ。「教会につながることで、きっと自分の心の向きを神様のほうへ向けていただいたのだと思います。教会は〝心たすかる場所〟なんだと実感しました」

そう言うと、木原さんは襟を正した。

「お道の学校で育てていただき、教会やようぼくのつながりがあって今の自分がある。そのことへの感謝の気持ちを忘れず、自分の経験やスキルを生かし『人の役に立つ』ことで、お世話になった方々に恩返ししていきたい」

(文=中西一治、写真=廣田真人)

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