第7回 その瞬間をジッと待つ

海上自衛官からカメラマンに転身した青年がいる。天理教道友社写真班に所属する根津朝也さん(34歳・笛吹川ふえふきがわ分教会)は、『天理時報』などに掲載される写真を撮り続けて8年目。今回の〝薫り人〟は、親里の風景や信仰者たちに日々レンズを向ける若きカメラマンを特集する。

8月の教会本部月次祭――。南礼拝場前でフレグラの廣田カメラマンが、ある青年にレンズを向けていた。その青年は額に汗を滲ませながら、「みかぐらうた」を唱和する参拝者の姿を一心にカメラに収めている。

「カメラマンに撮影の様子を撮られるのって、なんかこそばゆいですね」

真剣な表情から一転、人なつっこい爽やかな笑顔を見せたのが根津さんだ。取材中、「僕は筋肉が取り柄なので、筋肉にフォーカスしてもらったら有り難いです」と言いながら、隆々とした上腕二頭筋を見せつけてポーズを取るなど、ユニークな一面も見せた。

彼は言う。

「いま僕がさせてもらっていることは、お道の行事や四季豊かなおぢばの風景を記録する大切な御用だと思っています。当初はようぼくでもなく、信仰心も無かった僕が、この道に引き寄せられたことに、いまは心から感謝しています」

写真で美しさや感動を伝えたい

熊本県で生まれた。信仰初代の両親は熱心におたすけに歩いて布教所を設立した。一方、根津さんは成長するにしたがって自分の家庭が〝世間一般の家庭〟ではないことに気づき、お道に対して心の距離を取るようになった。

「生来、体を使うことが好きで正義感も強かったので、高卒で海上自衛隊に入隊しました。でも、年数が経つうちに〝何となく勤めている自分〟に気づいてしまい、自分が本当にやりたいことを模索し始めました」

勤務7年目の2014年、26歳のとき。任務で訪れる諸外国の風景を眺めながら、ふとある想いが浮かんだ。

「いま自分が見ている美しさや感動を誰かに伝えたい……。そうだ、カメラマンだ!」

同年9月、自衛隊を辞めた。「本当にやりたいことが見つかり、全く未練はなかった」。すぐに一眼レフカメラを購入し、写真の専門学校を探し始めた。

「天理教はする気がなかった」という根津さん。「これまで天理教のことを何にもしてこなかったので、東京の専門学校へ入学するまでの半年間、実家の布教所の手伝いやお道の行事などに参加して、少しでも親孝行しようと思いました」

そんな気持ちで、当時所属していた西海大教会の青年会行事に顔を出したときだった。「懇親会の席上、参加者との会話の中で、僕の人生を一転させるプロカメラマンの存在を教えてもらったんです」

憧れのカメラマンに手紙を書いて

小平尚典――。

写真週刊誌『FOCUS』の創刊メンバーで、1985年には「御巣鷹山日航機123便墜落事故」の現場にいち早く到着して取材。英BBC放送の「20世紀の記録写真家」に選ばれたプロカメラマンだ。

「そんな凄いカメラマンが『天理時報』でコラムを連載していることを初めて知りました。その時、1ヵ月後におぢばで小平さんの写真展があることも教えてもらいました。すぐに親里の光景を収めた写真集『Myファースト天理』を入手して拝見したんですが、日常の温かみが伝わる魅力的な写真ばかりで、めちゃくちゃ感銘を受けました」

気づけば根津さんは筆を走らせていた。写真集の感想、プロカメラマンになりたいという志し――。1カ月後の写真展で、そんな熱い想いを記した手紙を、憧れのカメラマンに手渡した。

数日後、所属教会の月次祭を終えてスマートフォンを見ると、知らない番号から通知があった。

「一度、会ってみませんか?」

相手は小平氏だった。後日、二人は天理のカフェで再会した。

「ご本人を前に舞い上がってしまって、何を話したか覚えていないんです(笑)。でも、しっかりと記憶にあるのは『専門学校なんかよりも、とにかく現場で学ぶのが一番速いよ』と言われたことです。その際、道友社を勧めていただきました」

当時、別席運び中だった根津さんは、すぐに修養科へ。自衛官を辞めて10カ月後の2015年6月、道友社の〝ようぼくカメラマン〟としてスタートを切った。

「またシャッターを切りたい〝奇跡の瞬間〟」

現在、勤務8年目となる根津さん。

「いま僕が最も力を入れているのは、カメラでおぢばの風景の美しさや感動を切り取るということです。なので、常に天候の変化を気にして、『いまだ!』という瞬間を狙っています。でも、『イイの撮れた!』っていう写真はなかなか撮れません」

そんな彼にとって、「またシャッターを切りたい〝奇跡の瞬間〟」がある。

勤務2年目の2017年6月6日午前10時6分。本部中庭でカメラをにぎっていた根津さんは、東の空を見上げて震えた。そこには、五彩の雲がたなびいていた。

「もう無我夢中でシャッターを切りました。撮影後、教祖御誕生の日に五彩の雲が出たという史実と、この日が陰暦で言えばお誕生日の辺りだということを知り、あらためて感激が強まりました」

当時、この写真は道友社のFacebookページなどを通じて拡散し、大きな反響を呼んだ。

「五彩の雲をファインダー越しにまた見たくて、中庭でジッと待っているんですが、あれ以来遭遇していません。あの写真は『イイの撮れた!』というカメラマン冥利というよりは、それ以上でした……。教祖の温かみを感じたというか、とにかく言葉に表せない感動でした」

そんな信仰の喜びを語る根津さんだが、入社当初は信仰とは一線を引いていた。

「元々、本気で天理教を信仰しようとは思っていなかったし、当初は世間一般で働いていた者として、職場に新しい風を吹かせたいといった高ぶった気持ちがありました。けれど、おぢばで勤務を続けるうちに、天理教のことがドンドン好きになっていく自分がいました。『ヤバい、ヤバい。思ってたのと違う!』って焦りました(笑)」

天理教が好きになった理由を尋ねると、彼の表情は真剣なものに変わった。

「信仰している〝人〟のお陰ですね。前の職場では、上司や部下との人間関係に悩むことがたくさんありましたが、おぢばに来てからは悩んだことがありません。信仰者は教えを心の指針にしているからこそ、お互いに何かあっても自分の心へ矢印を向けて心を治めることができるんだと思います。そんな素晴らしい周囲の人たちにお育ていただき、いまの僕があります」

結婚を機に、甲府大教会の部内教会へ養子に入った根津さん。 「甲府では来年11月に創立130周年の記念祭があります。私は大教会長様にお願いして、全部内教会長さんの肖像写真を撮影させていただけることになりました。その写真を記念誌に掲載するんです。大教会内の方々に僕の存在を知ってもらいたいし、皆さんに写真を通して少しでも喜んでもらいたい。それが今の立場でできる、次のステージへの一歩なのかなと思っています」

(文=石倉勤、写真=廣田真人)

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