天理高校軟式野球部全国大会決勝戦観戦ルポ│伊勢谷スポーツ俱楽部

立派な準優勝だった――。

全国高校軟式野球選手権大会の決勝が8月29日、兵庫県明石市の明石トーカロ球場で行われ、近畿代表の天理高校は東海代表の中京高校に4-6で惜敗。7年ぶり2回目の全国制覇はならなかった。

しかし敗れてなお色あせることのない激戦の記憶。ここでは、現地観戦だからこそ得た感動と、天理高校軟式野球部の魅力をお届けする。

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「攻めの姿勢」に応えた下位打線

高校軟式野球界の聖地、明石トーカロ球場――。

スタンドに足を踏み入れると、明石城跡の絶景が飛び込んでくる。美しく整備されたグラウンドは決勝の舞台にふさわしい。まさに「聖地」だ。

午前11時、プレーボールのコールが響く。

天理のエース木村投手は初回、一死一二塁のピンチで中京の4番打者をピッチャーフライに抑える。高めのストレートで詰まらせる力強い投球でピンチをしのいだ。 中京の先発川口投手も初回、テンポの良い投球で天理打線を三者凡退。外の変化球を引っかけさせ内野ゴロに打ち取るなど能力の高い投手だ。

初回の攻防を終えて印象的だったのが、両校の応援の素晴らしさだ。一塁側の天理応援席はブラスバンドとチアリーダーが奏でる応援に加えて、保護者やOB、そして天理ファンが大勢駆け付け、天理一色に染まっていた。

一方、三塁側の中京応援席は、人数こそ天理に劣るものの統率力が圧巻だった。チアリーダーの機敏な動き、一糸乱れぬ声援など、応援も大舞台に慣れている。さすが6大会連続決勝進出、連覇を狙う王者中京だ。

序盤に相次いで得点機を逃した天理は4回、エラーで先頭が出塁すると送りバントではなく強行策。しかし三遊間への鋭い打球をサードの好守に阻まれ、一死一塁。嫌な流れの中、天理が動いた。8番山尾選手が初球にエンドラン、これが見事にはまりライト前ヒットで一死一三塁のチャンス。ここで9番尾﨑選手がしぶとく三遊間を破り先制タイムリーヒット!スクイズをファールにした後の先制打。ベンチの攻めの姿勢に下位打線がしっかりと応えて、天理が先制した。

牙をむいた王者中京の「お家芸」

筆者がスタンド上段でメモを取りながら立ち見観戦をしていると、軟式野球部出身の後輩たちが声をかけてくれた。彼らは20年前に卒部したOB。応援席に目をやると世代を超えたOBたちが集結して、メガホンでこれでもかと声援を送っていた。

後半に突入した6回、中京は3番からの好打順だが木村投手が三者凡退に抑える。最後の打者は内角高めのストレートで空振り三振を奪い、中京の主軸を圧倒した。

一方、5回からリリーフのマウンドに立つ中京の清水投手はストライクゾーンで勝負する投球。テンポが良く6回は天理打線を6球で三者凡退。なんともリズムが生まれそうだ。

試合が動いたのは7回。中京は一死から、レフト越えツーベースヒットで出塁すると、死球とエラーで満塁。ピンチを招いて不安になったが、次の打者に木村投手が130キロ超えを連発。ギアを一段上げたエースに期待を込めた。

力投を続ける天理エースの木村投手

フルカウントからの7球目に三塁ランナーがスタート。そしてバッターがボールを大きく叩きつける。弾みやすい軟式球の特徴を生かして内野安打となり同点。なおも一死満塁で、次打者もボールを叩きつけて、ピッチャー前に大きく弾ませる。その間に三塁ランナーが逆転のホームイン。送球できず内野安打となった。

軟式野球の戦法である「たたき」は王者中京のお家芸。あっという間の逆転劇に一気に盛り上がる中京応援団。

嫌な流れの中、次打者の2球目がワンバウンドになるもキャッチャー小原選手が身体で止め、エンドランでスタートしていた三塁走者をタッチアウト。気迫のプレーでツーアウト。まだまだ流れは渡さない、天理の守備陣が頼もしい。

しかし、4球目がレフト越えスリーベースヒットとなり、ランナーが2人生還して1-4。苦しい展開になった。

感動の同点劇

軟式野球は硬式野球に比べて得点が入りづらいと言われる。使用するゴム製の球は飛距離が出づらく、芯も狭いのでヒットになりにくいからだ。だからこそ筆者は終盤3点のビハインドを重く捉えていた。

クーリングタイム後の8回の守備、天理ナインが勢いよくグラウンドに駆け出してきた。各選手が守備位置に一礼する。一塁手の山尾選手は丁寧に深々と頭を下げた。その姿は焦る筆者の気持ちをなんとも安心させてくれた。

100球を超えた木村投手の力投が続く。中京打線を三者凡退に抑えて、裏の攻撃にリズムを与えてくれた。

天理応援席には天理コスモ(小学生チーム)、天理中学野球部、そして準決勝で天理に敗れた明治学院の選手たちも集結して声援を送っていた。

天理の攻撃を前に一心にグラウンドを見つめる天理中学野球部員に「天理まだいけるかな?」と質問をすると、彼は「まだまだ大丈夫です!」と言い切った。8回裏、その言葉が現実になる。

一死後、代打植村選手が四球で出塁。清水投手の勝負球の変化球をしっかり見切り、奪い取ったランナーだ。続く6番小原選手が初球の内角高めのストレートを打つと、高々とセンターの頭を越えた。タイムリーツーベースヒットで2点差に迫る。この局面でよくぞ初球から振り抜いた。得点よりも攻めの気持ちを中京に突きつける見事な打撃だった。

ここで天理のチャンステーマ「ワッショイ」の重低音が響き渡る。7番下村選手はセンターフライに倒れたが、彼もファーストストライクを振り抜いた。緊迫した場面で小さくならずに、強く振り抜く天理の姿勢は中京守備陣にプレッシャーを与えただろう。

二死二塁で8番山尾選手はスリーボールとなり四球がちらつくが、ツーストライクを奪われフルカウント。本当に清水投手は粘り強い。それでも食らい付いた打球は二遊間に転がり、セカンドが弾く(記録は内野安打)。同点の走者を出して、ここまで2安打の9番尾﨑選手に回った。

「ワッショイ」のテンポが徐々にあがり天理を後押しする。しかし清水投手は2球続けてコースギリギリに投げ切りツーストライク。こちらもギアを上げてきた。

3球目がワンバウンドになると、すかさず一塁走者が進塁。流れが小刻みに行き来していく。

そして4球目、低めの変化球をうまく拾いレフト前に弾き返した!二塁走者も一気に生還して終盤に3点差を追いつく同点劇。

お祭り騒ぎの天理応援席。多くのファンが感情を爆発させて、涙を流してOBが抱き合っている。こんなにすごい試合があるのか!

グラウンドに目をやると打者走者の尾﨑選手が二塁ベース上にいる。レフトがバックホームした間にきちんと二塁まで進んでいた。気持ちが高ぶる場面で冷静に相手の隙をつく、まさに天理の強さが凝縮されたシーンに感動した。

選手を見守る親の気持ち

4-4の同点で9回の攻防へ――。

8回の攻撃を応援席でお祭り騒ぎしていた筆者は、9回を保護者席で観戦した。この局面、選手の保護者はどんな気持ちなのかを知りたかったからだ。

同点とされても王者中京は慌てない。先頭がヒットで出塁すると、送りバントと四球で一死一二塁と一打勝ち越しとする。

ここで天理は宇野投手に継投。マウンドを降りる木村投手をスタンドは万雷の拍手で迎える。保護者席だからなのか、なんとも温かい涙が出そうな拍手だった。

同点のまま裏の攻撃に挑みたい天理。サードゴロで二死二三塁として迎えた中京は、3番の黒田選手が2点タイムリーヒットで4-6。打った打者を褒めるしかない見事な打撃だった。

天理は小刻みに継投して左の藤本投手がマウンドへ。決勝の緊迫した場面、緊張からか投球練習でワンバウンドが続いたが、サードの石井キャプテンがマウンドに行き声をかける。最高のタイミングだ。中京4番荒井選手にしっかりとストライクゾーンで勝負。三塁線に鋭い打球が飛ぶもサード石井選手が好捕。キャプテンの存在感が光った場面だった。

天理高校軟式野球部の魅力

9回裏、天理の攻撃はツーアウト。奇跡を願う気持ちと、8 回に涙の同点劇を繰り広げた彼らにさらに求めて良いのか、複雑な気持ちだった。

打席に4番木村選手。清水投手の3球目は内角低めの完璧なコースに決まりツーストライク。中京のすごさを最後まで痛感しつつ、そんな王者を苦しめた天理が誇らしく思えた。木村選手がセカンドゴロに打ち取られ試合終了。中京歓喜の輪がマウンドに大きく大きく広がった。

ベンチ前に整列しながら、優勝した中京の校歌を彼らはどんな気持ちで聞いたのだろうか。

さまざまな思いを馳せていた。

その後応援席前に整列。どの場面よりも大きい、この日一番の拍手が届けられた。
保護者はどんな気持ちで拍手を送っているのか、考えただけで胸がいっぱいになった。負けてなお強かった天理高校。私も感謝とリスペクトの気持ちで拍手を送った。

観戦を終えて心に残ったのが、応援に訪れた軟式野球部OBの圧倒的な数だ。「奈良県は球場に近いから」では片づけられない要因があるように感じた。

試合後、OBたちに話を聞くことができた。7年前、全国制覇をしたときのエースでキャプテンだった大瀬祐治さん(25歳)は、「試合を重ねるごとに成長してくれて、観戦していて楽しかったです。私が現役時代も沢山のOBの方が応援をしてくださり、次は私たちが応援する側になった。軟式野球部には代を重ねてもOBが応援をする文化があるように感じます」と、応援で枯らした声で話してくれた。

OB会長をつとめる原田孝勇さん(40歳)には、なぜOBがこんなにも応援に訪れるのかを尋ねてみた。「OB会として近年はグループLINEを作成して情報発信に努めていますが、一番の要因はお道のつながりだと思います。兄弟や親戚だけでなく、天理高校は教会としてのつながりがあるのも大きいでしょうね」。確かに同じ直属の選手の活躍を喜ぶOBや教会長さんの姿を目にした。そして「私は24期生ですが、今日は1期生の方も来られているんです」と初代軟式野球部の方を紹介してくれた。

閉会式後、準優勝盾を持ってグラウンドを一周する天理の選手たち。真っ黒に汚れたユニフォームは彼らが力を出し切った証だ。そして彼らに最後まで拍手を送る保護者とOBの姿に触れ、天理高校軟式野球部の魅力を感じられた気がする。

ユニフォームを着た彼らが、来年はOBとして全国の舞台で応援している姿を見るのが、今から楽しみでならない。

天理コスモ、天理中学野球部、応援の方々、そして集結したOBのみなさん。

(文=伊勢谷和海 写真=廣田 真人)

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