伊勢谷スポーツ俱楽部特別企画vol.2 天理高校ラグビー部「”考えるラグビー”で18年ぶり花園ベスト4!」
太安主将へインタビュー
4年ぶりの花園(全国高校ラグビーフットボール大会)出場で、18年ぶりにベスト4まで勝ち進んだ天理高校ラグビー部。劣勢でもひたむきに前を向き続ける姿、状況に応じた主体的なプレー。選手たちが1年間大切にしてきたラグビーを目の当たりにして、結果以上の感動を与えてもらった。感動冷めやらぬ1月下旬、再び太安善明主将に話を聞いた。
劣勢でも「まだいけるぞ」、自分たちを信じる力
―花園に足を踏み入れたときはどんな気持ちでしたか?
初めての花園で緊張や不安がありましたが、いざグラウンドに立ってみると楽しみの方が大きかったです。
―初戦の青森山田戦(2 9ー15)はどんな試合でしたか?
普段ならできるプレーがチームとしてできなかったです。大観衆が詰めかけた あの素晴らしい舞台でプレーするのは初めてだったので、緊張で力を発揮できず悔しさが残りました。
―開始早々に田仲功栄選手の連続トライがあり、いい流れのように感じましたが 。
最初はこのままいけるかなと思いました。しかし、小さなミスからペナルティーを重ね、オフサイドを多く取られてしまいました。負けたら終わりという中 で、少しでも攻め込まれると焦ってしまい、気持ちが前に出過ぎていました。
後半では立て続けに得点を奪われてしまいました。もっとFW(フォワード)がガツガツいけたら良かったと思います。
―3回戦の石見智翠館戦(1 5ー8)で、前半14分に先制トライ(0ー5)を許したときの心境はどうでしたか?
正直、焦りはありましたが、この1年間は先制されても逆転して勝つ試合が多かったので、「まだいけるぞ 」と思っていました。去年までなら焦っていましたが、今年は修正点を共有して、自分たちを信じて切り替えることができました。
―先制された直後に飛峪選手(1年)が負傷しました。動揺はありましたか?
治療の時間が長かったので心配でした。ただ交代出場した内田(1年)を不安な気持ちにさせないよう、しっかりと前を向くことを意識していました。3年生全員が「飛峪の分もやるぞ」という気持ちだったと思います。
―前半27分、内田選手の素晴らしいオフロードパスからの同点トライ(5ー5)。すごい1年生が控えにいたんですね。
内田はプレーでも、寮生活でも「3年生かな」と思うような貫禄と落ち着きがあるんです(笑)。あの大事な場面で決め切れるのは心強かったです。
―後半23分には、前田選手のキックパスを土谷選手が勝ち越しトライ(15-8)を決めました。チームの強みである「考えるラグビー」が体現されたように感じました。
去年までなら敵陣でも単調な攻撃を続けていたと思いますが、今年は状況に応じ たプレーを意識していました。あの場面は前田がスペースを見つけて、土谷も狙っていました。2人が考えながら前を向いた中でのプレー、1年間大事にしてきたラグビーができた場面でした。
悔しさと感謝
―準々決勝の長崎北陽台戦(8-5)も前半14分に先制トライ(0-5)を許しながらも 、前半終了間際にPGで3-5としましたね。
前半は敵陣でプレーする時間が多く、ペナルティーももらっていましたが、モールでトライを取れていませんでした。なので、落ち着いてPGで3点返そうと判断しました。
―リードを許してのハーフタイムはどんな時間でしたか?
監督から自分のプレーが「いつもと違うぞ」と言われたんです。実際、周りの選手は良い動きなのに自分だけ動けていないと自覚していたので、後半はガツガツいこうと思いました。チームとしては、フェイズ (連続攻撃)を重ねる中でFWは動けていたし、BK(バックス)も展開して前に出られていたんです。相手のディフェンスが寄り気味だったので、空いたスペースをアタックする場面で、たくさんミスをしてしまい、トライを取りきれませんでした。「ミスさえしなければトライできるぞ」と声をかけました。
―ミスが多かった要因は何ですか?
勝負所の弱さがでました。いままで個人のキャリー(ボールを持って前へ進むこと)、ラインアウトモールなどセットプレーからのトライが多かったので、パスを繋いでのトライはあまりなかったんです。それで焦りが出てしまったように思います。
―後半12分の、内田選手の逆転トライ(8-5)はすごかったですね。
好アタックが続き良い流れでしたが、あんなにうまくトライが取れるとは予想してなかったので、内田すごいなと思いました(笑)。
―後半27分には、自陣で相手のラインアウトをマイボールにして、さらにその後こちらのキックを相手選手がノックオン。天理に流れが来ていると感じました。
同点にされたくなかったので、ペナルティーを犯したときにPGを選択されたら 嫌だなと思っていました。ラインアウトになりピンチでしたが、自分たちが相手の立場だったらと考えたんです。あんな緊迫した場面のラインアウトはスローワーにプレッシャーがかかるし、ミスしやすいと思いました。また、モールディフェンスも通用していたので、あの場面は「PGじゃなくてラッキー」くらいの気持ちでした。たまたまですがキックをノックオンしてくれて、流れを感じました。
―すごく冷静ですね!
同点になったら苦しいと思っていたので(笑)。
―後半ロスタイム、キックで試合を終わらせたはずだったのに笛が鳴りませんでしたね。あのときの気持ちはどうでしたか?
切り替えるしかなかったですね。ディフェンスで勝ちきれたので良かったです。
―耐え凌いだロスタイムの4分半、どんな心境でしたか?
とにかくタックルに入るだけでした。BKのディフェンスも良かったですし、FWも目の前の相手を倒し切ることができたので、あの試合でディフェンスは成長できたと思います。
―準決勝の報徳学園戦(12-26)では、前半(0-12)に2トライを奪われました。
報徳はBKが強みのチームで、特にSO(スタンドオフ)が起点となって、周りを活かすラグビーを得意としていました。なので、SOにプレッシャーをかけてミスを誘うようにしていました。ただルーズボールがトライにつながったので、詰めの甘さが出てしまったように思います。
―後半11分に天理の強みであるモールでトライを奪いました(7-12)。
FWは負けていなかったです。強みであるモールを全員で押し込んでトライを決めることができたので、いけるぞという気持ちになりました。
―試合に負けたときはどんな気持ちでしたか?
優勝しか見ていなかったので、準決勝で敗れて悔しい気持ちがありました。試合 を重ねるごとに知らない方々にも声をかけていただき、また観客席もすごい応援でした。そういう方々に優勝をお届けすることができなかった悔しさと、ここまで応援してくださったことへの感謝の気持ちでいっぱいでした。
―大会後はすぐにお節会ひのきしんに参加されたそうですね。反響はありましたか?
みなさん、おめでとうと言ってくださいました。ただ、やっぱり優勝したかったので、感謝と悔しさが入り混じって複雑な気持ちでした。
ひたむきに最後まで諦めず
―天理高校ラグビー部だからこそ学べたことはありますか?
下級生のときは練習が苦しかったですが、それだけ忍耐力が付いたように思い ます。また、天理高校は「ひたむき」をモットーにしていて、学校生活や私生活でも意識してきました。ひたむきに頑張る中に大切なものが身に付き、それが土台となって今回の結果につながったように思います。
―太安選手の思う「ひたむき」はなんですか?
どんな状況でも諦めないことです。ラグビーならトライを決められても諦めず 最後まで自分たちのプレーを信じてやり切る。ミスが起きても最後まで信じ続けるという姿勢がひたむきだと思います。
―天理教の教えがラグビーに活きたことはありますか?
今年は怪我人が多く、ベストメンバーで試合ができない日々が続きました。しかし、怪我を通じて親神様に気付かせてもらうことが多く、私生活やラグビーを見直すことができました。信仰がなかったら「なんで怪我をしてしまうんだ」で終わっていたと思います。
―花園期間中の宿舎は芦津大教会だったそうですね。おつとめもされたんですか?
大教会のみなさんと一緒にさせてもらいました。自分たちはコロナで定刻参拝や寮のおつとめを全員で勤める機会があまりなかったんです。なので、大教会でみんなでおつとめを勤めることができたのは貴重な時間でした。飛峪の怪我のお願いもおつとめ中にさせてもらえたので、とても大切な時間でした。
―全国のファンの方々に一言お願いします。
優勝をお届けできなくて残念でしたが、4年ぶりに花園で天理ラグビーを披露できて本当に良かったです。応援していただき本当にありがとうございました。
―ありがとうございました!
(文:伊勢谷和海 写真:永尾泰志)
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