高校女子バレーボール部監督/曽根喜広さん×伊勢谷スポーツ俱楽部「自分自身の在り方の大切さ」

公立高校で 10 回全国大会に導いた女子バレーボール部の監督がいる――。伊勢谷スポーツ倶楽部ファンの方から興味深い情報が届いて、新潟県に向かった。
名将の名は曽根喜広さん。訪れた体育館には、強豪校監督としての厳しさと、結果を残し続ける明確な答えが――。バレーボール部の監督として伝わってきた曽根監督の魅力と信仰姿勢をお届けする。

ボスマネジメントからリードマネジメントへ

―バレーボール(以下・バレー)を始めたのはいつですか?

中学から始めて新潟県選抜に選ばれました。実家が佐渡島にあり、高校進学時は母方の伯母の教会に住み込みながらバレーに打ち込み、全国大会に出場することができました。

大学は複数の選択肢がありましたが、教会長子弟だったこともあり天理大学へ進学しました。

―天理大に進学してどうでしたか?

大学日本代表選手もいるチームで試合に出場して、関西インカレで優勝することができました。選手として良い経験をさせてもらいました。また精神的に苦しいときには、夜中に本部神殿で参拝して、心が洗われることが多々ありました。信仰に素直になれない時期だったので大切な経験でした。

卒業後は新潟県で高校教員をしながら、指導者兼選手としてクラブチームで 28 歳までプレーして、国体にも出場しました。

―県内の高校バレー界では、曽根監督が就任すると必ず全国大会に導くと言われているそうですね。

運と選手の頑張りのおかげです。新潟県の公立高校 3 校を県大会優勝に導いたのは私が初めてだったので、そこは誇りではありますね。

練習前には、選手個々が今日の目的や課題などを明確にするために、二人一組になって対話をするという

―すごいですね!現在の高校には 2019 年に赴任されインターハイや春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)に導かれています。監督として意識していることはなんですか?

ボスマネジメントからリードマネジメントへの移行ですね。「おれの言うことをやれ」ではなく、「共に走っていこう」という伴走型指導が大切だと思います。若い頃はボスとして指導していましたが、社会の流れや私自身のキャラクターを踏まえて移行していきました。

スポーツに限らず、企業や学校でも変化が求められています。

もちろん、設立時や混乱時はボスマネジメントが必要ですが、形になってきたら共に走る姿勢が大切だと思います。監督と選手、どちらを主役と考えるのかだと思います。

―練習でも足の運びなど細部をしっかり見て、反復させていました。共に走る姿勢を感じましたが、褒めることはありますか?

褒める、怒るよりも、選手を信じて認めることが大切だと思います。お道では「心だけが自分のもの」と教えられるように、心だけは選択できます。

だから、指導するときは「おれはこう思うけど、君たちはどう思う?」「君たちはどうしたいの?」と考えさせるようにしています。

私の思いは伝えるけど、どうするかは選手が決めるべきこと。選手を褒めたり怒ったりすることで自分の思う方向にコントロールするのは心の自由を奪っているのではないかと思います。

そういうときは不思議とうまくいかないですね。

練習中、何度も選手を集めて声をかける。指示ではなく、思いを伝えたうえで選手に問いかけ続ける。

在り方の大切さ

―信じて認める大切さに至った背景はなんですか?

保護者とのトラブルが絶えなかったんです。「こんなに頑張っているのに、なぜこんなこと言われるんだ」と悩んだときに在り方の大切さに気づきました。自分が日常からどう在るか。

日々罵声のみを浴びせている選手が突然、辞めたいと相談に来たときに、「君を信じているよ」と伝えても全く刺さりません。日常から選手を気にかけて信じる、これが私の在り方です。

今は、下宿生の登下校の送迎や大会等での荷物運搬を含め、簡単に言葉で表現するより、自分が選手のために汗をかくことが一番のメッセージかなと思います。選手の誕生日には必ず「パイの実」をプレゼントしています(笑)。


―信仰者としてとても勉強になります。

これまで精神的に苦しくなりながらも部活を続けてくれる選手が何人かいました。そういう選手に寄り添う上では、高校時代に教会で住み込んだ経験が生きています。教会では、様々な背景のある方々を受け入れていたんです。その経験はとても大きく、私からは絶対に辞めさせないし、バレーをさせてあげたいです。

―教会生活が生きているのですね!でも、受け入れたいけど結果も求められる。この矛盾の中でも頑張れる原動力はなんですか?

親になって思うことは、生まれてダメな子はいないということです。いろいろな子がいますが、それは大人や社会の都合がそうさせているだけだと思います。

縁があって、多くの子とバレーを通して繋がらせてもらっているのに、私が受け入れられないという理由で辞めさせることはできません。

昔は勝ち負けにこだわるあまりに辞めさせることもありましたが、いまは「思いやりの成果が結果になる」と思っています。

相手がどういう状況であれ、最後の最後まで寄り添うことが大切だと思います。

監督自らコートに入る。強豪校ゆえの厳しさと緊張感があった。

―練習中、3 年生に対して在り方を問う場面が多かったですね。

毎年必ず学年間でトラブルが起こります。しかし、3 年生がそれを嫌がって下級生に伝えるべきことを伝えないのは違うと思います。

3 年生だから分かることがあるはずなので、「この後輩は分からないから言っても無駄だ」と諦めるのではなく、「将来必ず分かってくれるから伝える」と、信じることを大切にしてほしいです。

また、今年はインターハイ出場を逃してしまったので、いまは春高バレー出場を目指しています。春高バレーにいきたい思い、そして仲間を信じる思いがあるなら、絶対に伝えるべきだと私は思っています。

言わないのは楽ですけど、それは自分軸であり、相手にもチームのためにもならない。

―練習後に泣いている選手がいましたね。

彼女は 1 年生です。

ある 3 年生がコロナで 2 日間練習を休むことになり、初めてコートメンバーに入ったんですが、不甲斐ないプレーをしてしまったことに泣いていました。

実は彼女は、「2日間コート練習に入るのが不安です」と相談に来たんです。でも、3 年生が今のプレーができるようになるには、2年間も悩んだり落ち込んだりした経験がある。

そのことは 3 年生が 1 年生に伝えてあげてほしいです。

―コート練習中、先生に相談にいく選手が多かったのも印象的でした。

いつでも分からないことは聞きに来るように伝えています。

ただ、監督に聞きに行くのは多少ハードルが高い、だからこそ嫌な役割を 3 年生が率先して担ってほしいです。

ボールを拾いに行くのも 3 年生が動く方が後輩に信頼されます。

宗教は「信じる」の最たるもの

―練習中で動きのアドバイスはするけど、正解の動きを伝えないのが印象的でした。

監督の指示通り動くチームは、フォーメーションも固まり、指示通りにアタックをするので対策しやすく、穴も分かりやすい。

一方で選手の判断で、その都度フォーメーションを自然に変えるチームの方が相手は嫌なんです。

試合では苦しいときにタイムアウトを取れますが、相手にもチャンスを与えることになるので、選手が主体的に動ける方が良い。

6 人が自分の色を出し合い、良い意味で指示も半分しか聞かず、あらゆるパターンで 25 点を取るのが理想です。

セッターだといいトスをあげるより、試合展開を意識して選手をどう生かすかが大切です。いいトスが毎回あがると、相手はブロックしやすく、トスが乱れるとブロックしにくいんです。

あえてトスをずらすことも必要で、その見極めは選手の判断でしかないですよね。

―練習中、「トスは思いやり」と何度も伝えていましたね。

打ちやすいと言われる理想的なトスは存在します。でもアタッカーがそれを求めているかは分かりません。

自分中心にプレーすると良いトスをあげようとしますが、思いやりを持ってトスをするとアタッカーが望むトスをあげられます。

―曽根監督の指導には、なんだかお道とリンクする部分を感じます。

若い頃は「なんで教会に生まれたんだ」と思っていました。

でも、教会生活やお道の教えが監督としての私にとても影響を与えていました。小学生のとき、こどもおぢばがえり団参中に父が出直したんです。

それ以来、お道に不信感を持つようになりました。でも、その時期があったからこそ、40 代になって前向きに信仰を捉えられていると思います。

選手にも父親を亡くした経験を伝えながら、「マイナスなことが本当にマイナスとは限らないよ」と話しています。

選手には仲間を信じて欲しいと思っています。「信用」には必ず根拠がありますが、「信じる」には根拠がありません。

根拠がなくても信じるかどうか。宗教はその最たるものだと思います。そう思えるのも信仰のおかげです。

伊勢谷のふりかえり

先日、ある若者へのおたすけの機会があった。

教会として彼に誠真実を尽くしたつもりだが、裏切られる形になった。定期的に彼の下に足を運んでいるが、心が揺らぐときもある。

だからこそ「信じるには根拠がなく、宗教はその最たるもの」、このフレーズが心に刺さった。

彼に対して「信用」できる根拠を探り、いつしか不信感が目につくようになっていた。しかし、「信じる」一番の要因は神様が繋いでくださった方であるということ。

そのことに気付けて確実に彼に対する心の向きが変わった。私は目には見えない神様の存在を少しづつ信じられるようになった。

その過程は、おたすけさせてもらう上で必要なことだと思う。曽根監督の在り方から、大きな気付きを得ることができた。

(文=伊勢谷和海 写真=廣田真人)

曽根喜広さん/(SONE YOSHIHIRO)

1977 年、新潟県佐渡島生まれ。中学からバレーを始め、高校では全国大会に出場。天理大体育学部に進学してバレーボール部に所属。卒業後、新潟県内の公立高校教員に着任して女子バレー部を指導する傍ら、自らも 28 歳までクラブチームでプレー。監督として 3 校の公立高校を県大会優勝に導く。

伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI

1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。


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