第1回 「やさしい心」で「続ける」

お道の信仰者には〝にをい〟がある。それは優しさ、謙虚さ、ユーモアであったり、時には自らの信仰実践に対するストイックさであったりする。そんな絶妙なフレグランスは、周囲の人たちを包み込み、感化する――。

お道の〝薫り人〟を紹介するこのコーナー。第1回目は、天理高校の北寮ふしん寮幹事を務める沖かおるさん(26歳・慶州けいしゅう分教会)だ。

「共に育とう 挑戦の日々 心寄せ合う 楽しみの道」

北寮のベランダには、遠くからも見えるように寮のスローガンが大きく掲示されている。「韻を踏んでいるし、文言が今の〝青年会っぽい〟」

2月初旬の早朝、そんなことを考えながら、北寮の門をくぐった。


「今日はよろしくお願いいたします」

玄関先で身体を二つに折り、丁寧に頭を下げる青年。北寮幹事の沖さんだ。マスクで表情が半分しか見えないのに、彼の優しさと謙虚さがにじみ出てくる。

天理高校の男子寮である北寮。今年度は計222名の生徒が寝食を共にしてきた。同寮では、階ごとに1年生から3年生混合の5塾に分かれ、各塾に塾長1名と幹事4名の体制で指導している。幹事は3年間、同じ担当生徒(十数名)の生活面などを親身に世話取りする。生徒にとってみれば、頼りになる〝お兄さん的存在〟だ。

勤務3年目、最後の年になる沖さんは全幹事をまとめる幹事長。「俺についてこい!」というより、「周囲が協力したくなってしまう魅力を持ったリーダー」というのが、記者の第一印象だ。
本人にそう伝えると、

「そんな事ありません。尊敬する寮長先生のご指導の下、素晴らしい幹事さんたちが率先して動いてくださり、支えてもらったことで務めることができました。本当にありがたいです」

と赤面した。彼からは終始、感謝の言葉があふれてくる。

小学6年生で「神様ってすごいなぁ」

鳥取県倉吉市の教会で、8人兄弟姉妹きょうだいの三番目三男として生まれた。地元の中学校を卒業後、天理高校二部へ進学。同校4年生のとき、父・慶朗よしろうさんから「おぢばに残ってほしい」と伝えられた。「将来、教会を継いでほしい」というメッセージだと悟った。

「小学6年生のとき、母が8人目の出産後に危篤におちいり、子供ながら神様に懸命にお願いしました。奇跡的に母はたすかり、『神様ってすごいなぁ』と実感したことを鮮明に覚えています。その後、天高二部でおぢばでの生活を送るうちに、日参を始めるなど、おのずと信仰心をつちかうことができたように思います。なので、将来の事は『神様がなされることだから』と、特に抵抗はありませんでした」

卒業後は就職を考えていたが、父の思いを受けて専修科へ。専修科では、信仰姿勢や人格に対して、心から尊敬できる恩師に出合った。

「実は、その先生は元北寮幹事だったんです。折りに触れて、先生から幹事時代の体験談を聞きました。『こんな素晴らしい人になれるのなら、北寮幹事になってたくさん学びたい』と強く思いました。先生にも強く勧められ、幹事を志願しました」

「頑張らなくていい。楽しんで通ろう」

午前7時半、天理市の気温は0度。親里一帯は濃い霧に覆われ、マスクの隙間から白い息が立ち込める。

「おはよう、いってらっしゃい!」

北大路と西筋道路がぶつかる交差点で「登校指導」に立った沖さん。相手は思春期の男子生徒。素っ気なく、元気な挨拶あいさつはなかなか返ってこない。それでも、絶えず笑顔をふりまき、信号待ちの際には積極的に生徒たちに話しかける。

「気になる子には、常に声を掛けようとアンテナを張っています。でも、私自身、生徒たちと接する中で、心を倒しそうになるときも多々あります」

あるとき、生徒の言動を注意した後、挨拶をしても、話しかけても無視されるようになった。

正直、キツかった」

そんなとき、大切にしているのは「やさしい心」で「続ける」こと。

「いけない事は厳しく注意しますが、生徒がその言動に至った背景が必ずあります。教祖おやさまのような『やさしい心』で生徒の気持ちになり、生徒からどんな反応が返ってきても、挨拶や声かけを『続ける』。そんな日々の姿勢によって、こちらの思いが伝えずとも伝わって、生徒は必ずいい方へと成長してくれるんです。まさに心通りです」
数日後、生徒は「すみませんでした」と謝ってきた。

「今思えば、私が天高や専修科のとき、父が私を気にかけて何回も電話をかけてきました。若い私は『うっとうしい』と思っていましたが、あの連絡でたすけられていたのかもしれません。今私が同じ事を生徒にやっています。生徒とぶつかっては、共に成長しての繰り返し。でも〝共に育つ楽しみ〟があるから、頑張れます」

沖さんの〝日々の姿勢〟から影響を受けているのは生徒だけではない。同階で幹事を務めている谷本一朗さん(23歳・三島丘分教会)は勤務1年目。当初、慣れない生徒指導の日々に「頑張らなければ」と焦り、心の余裕が無くなっていた。

「そんな時、沖さんから『頑張らなくていいよ。楽しんで通ろう』とアドバイスをもらいました。心がスッと軽くなり、本当にたすかりました」

そんな谷本さんに「沖さんの素晴らしさを一言で表すと?」と尋ねると、即答だった。

「何でも肯定し、受け入れてくれる寛大な心ですね」

後押しとなった〝最後の一言〟

この春、担当生徒と共に北寮を〝卒業〟する沖さん。一度は、北寮幹事を辞退しようと思った過去があった。

4年前の平成30年9月、父・慶朗さんが病気で帰らぬ人となった。入退院を繰り返す父の動向を見守りながら、すでに幹事の内定が決まっていた沖さんは、母親や教会のことを心配し、地元へ帰ることを考えていた。

そんなとき、電話で言われた父の〝最後の一言〟が後押しとなった。

「薫、絶対に後悔するなよ」

 ここまで語ると、沖さんは一度大きく肩で呼吸した。

「父は私の心が揺れていたのが分かったんでしょうね。父は厳しいけれど、子供の意思を尊重してくれる、優しく愛情深い人でした。私が北寮幹事になることを誰よりも喜び、楽しみにしていたと思います。北寮幹事ができて本当に幸せだったと父に伝えたいです。今、父もきっと喜んでいると思います」


終始、冷静に言葉を選んで質問に答えていた沖さん。そんな彼が、熱弁する場面が一度だけあった。帰りぎわ、駐車場で寮のスローガンについて話したときだ。

「スローガンは毎年、幹事で話し合って決めるんです。これ、めちゃくちゃ良くないですか?! 今の青年会っぽいし、スゴク上手く韻を踏んでいるし。最高のスローガンだと思います。この1年間、私たち幹事を支えてくれた大好きなスローガンなんです」

共に育とう/挑戦の日々/心寄せ合う/楽しみの道――。

スローガンを眺める彼の表情には、この文言に徹しきった自信がみなぎっていた。

(文=石倉勤、写真=廣田真人)