天理陸上の申し子/山本芳弘さん×伊勢谷スポーツ俱楽部【後編】

「壮大な夢とステキな夢」

世界を舞台に戦った山本さんは現役引退後、陸上界の大きな夢を抱き、まさに挑戦の道中だ。 一方で信仰者として、誰しもが共感できるお道の夢も持つ。ようぼくアスリートだからこそ 抱く「夢の二刀流」について聞いた。

奈良県に実業団チームを

―山本さんには夢があるとお聞きしました。

奈良県に陸上の実業団チーム(企業が運営するスポーツチーム)を作りたいんです。 昔から奈良県の中学生のレベルは全国中学駅伝で入賞するほど高いのですが、県内に全国 レベルの高校がないため、県外に進学します。また、高校では智弁学園が選手の強化を頑張 っていますが、彼らも関東の強豪大学に進学する。奈良産業大学や天理大学などが頑張って も、実業団がないので最終的には県外に進む。選手たちの受け皿となる実業団が奈良県にで きたら縦の強化が進んでいくので、その仕組みを作りたいんです。

―すごい夢ですね!いままで実業団がないということは、課題も多いですか?

実業団の運営は、一社で出資するのでお金がかかります。合宿や遠征などの活動費が大きく、 また練習や遠征で仕事を抜けることが多いので、会社側の理解が必要になります。 トヨタ織機も同好会からスタートして強化されましたが、それは企業としての母体が大きいか らこそ実現したことです。奈良県にその規模の企業があるか、そして出資をしてもらえるかが問題になります。

―具体的に動き出しているのですか?

陸上を引退後、同じ郷土の方々と知り合いたくて、東海奈良県人会(愛知岐阜三重の東海三 県在住の奈良県出身の起業家や社員の有志の会)に入会したんです。当時の県人会会長に夢 をプレゼンしたら、ある経営者の方を紹介してもらい、奈良県の多くの企業の方とつなげて もらいました。ただ数社に提案をしましたが、いい返事はもらえませんでした。 私自身競技者としての実績は残せた一方、指導実績がないのが懸念点でした。そんな中、名 古屋市内の中央発條から陸上部コーチの依頼をいただきました。現在は、平日は単身赴任で コーチ業をして、休日に天理の家に帰る生活をしています。

―天理を陸上の街にすることは難しいですか?

天理高校の陸上部を強化したら強い高校生は集まりますが、大学は箱根駅伝を目指して関 東に行くと思うので、天理を陸上の街にすることは難しいでしょうね。だからこそ、受け皿 となるトップチームを作れば、地元に帰ってこられる環境ができるんです。

「伝わる信仰」を目指して

―お道の教えがベースにあるトップチームができたらワクワクしますね。天理教の教えが競技生活に活きたことはありますか?

実は 2005 年の世界ハーフマラソンの翌年に、気持ちが切れてしまい一度陸上を辞めたことがあるんです。そのときに修養科を志願して、半年間大教会で青年勤めをしていました。その期間はとても信仰的に育ったように思います。

修養科ではいろいろな方と接する中で、みなさんが感謝の気持ちを大切にしていたり、当たり前のことを喜んだりしている姿に触れて、私自身も感謝が芽生えて、当たり前を喜べるようになってきたんです。

その気づきは陸上に復帰してからも活かされました。ランナーは大会に合わせてピーキング(調子を上げて最高のコンディションでレースを迎えること)をします。最高の状態で大会を迎えられたときは本当に有難く感じるようになりました。

また離婚後は単身赴任で陸上をしていたので、もし子どもが身上になったら帰らないといけません。そうなると、練習もできないし試合にも出場できない。だからこそ子どもが元気でいてくれることが当たり前ではなく、心から感謝できたんです。

―修養科や大教会青年勤めの経験が大きかったですか?

修養科に行くまでは、帰省して神殿へ参拝に行っても形だけのおぢばがえりだったように思いますが、今はちゃんとおぢばに帰るようになりましたね。見た目は変わりませんが、中身が変わりました。自分の意思で参拝するようになりました。

―主体的な信仰が芽生えたんですね!信仰者として今後の夢はありますか?

現在は兄が教会長をしているので、私は弟として働きながら会長を支えつつ、今まで通り信仰と向き合いたいです。それと、子ども達に信仰してもらえたらうれしいですね。これは強要するものではないですけど、私がきちんと信仰に向き合っていたら子ども達も付いてきてくれるんじゃないかなと思っています。

―なぜ子ども達にも信仰してほしいと思いますか?

私自身、お道の人間としての心の使い方ができてよかったと感じるからですね。子ども達にもお道の信仰を通して、当たり前に感謝できるような人になってもらいたいです。

1 年前に未信仰の女性と再婚して、教会の近くで家族と暮らしています。妻にも信仰してもらいたいですが、当初は参拝に誘っても「一人で行ってきてね」みたいな感じでした。友人に相談したら「信仰してもらいたい気持ちは分かりますが、焦らないことが大切ですよ」って言われたんです。

そんな中、妻が昨年から天理大学に通うことになりました。すると、大学に通う中で信仰に対する考え方が変わったのか、私が参拝に行くときについてきてくれるようになったんです。小さなことですが、とてもうれしかったですね。私が口酸っぱく言うのではなく、いろいろな方を通して天理教の良さが伝わったのかなと思うと本当にすごいことだし、感謝の気持ちが湧きました。

夫婦と言えど、信仰を強要するのは違うと思っていたので、数十年後に一緒に参拝に行けたらいいなと思っていましたが、こんなに早く実現できて有難いです。

―奥さんに信仰して欲しかったんですね。

妻が信仰をしてくれたら教会としてもたすかりますが、それ以上にお道を通して妻のたすかりになったらいいなと思っています。「信仰に触れる中で、今以上に日々の喜びに気付き、感謝できるようになるといいね」、と妻と話しています。私自身がお道のおかげで心が生まれ変わり、今が本当に有難いからこそ、そう思います。

伊勢谷のふりかえり

「信仰の入口として時には強制することも必要か?」
この問いに、私自身おたすけの現場、分会活動の際に葛藤することがある。家族への信仰を語る山本さんは「信仰はしてほしいけど、強要するものではない」と繰り返していた。なぜ強要しないのか。そのベースは山本さんの背景にあると思った。

山本さんは信仰の素晴らしさを周りの姿から感じていた。感謝と喜びが心に刻まれているからこそ、主体的に実践して日々を前向きに通れている。誰かに言われたからではなく、お道のいいにをいが伝わっていたのだ。

だからこそ「信仰したら幸せになれる」と、ぶれない信念を自然と語れるのではないか。

(文=伊勢谷和海 写真=廣田真人)

山本芳弘さん/YAMAMOTOYOSHIHIRO

1983年、天理市生まれ。天理小学校で陸上を始め、天理中学では近畿大会に出場。添上高

校ではインターハイ、国体で入賞、5000M奈良県高校記録を樹立した。実業団アラコではニューイヤー駅伝で活躍し、ハーフマラソンで国体2位、世界大会出場の実績を残す。引退した今も市民ランナーとして活躍中で、奈良マラソンは3連覇中。現在は中央発條陸上部コーチをつとめる。

伊勢谷和海/ ISETANI KAZUMI

1984年愛知県生まれ。天理高校、天理大学卒業後、天理高校職員(北寮幹事)として勤務。好きなスポーツは野球・陸上・相撲・ラグビーなど多岐にわたる。スポーツが好き過ぎて、甲子園で校歌を数回聞くと覚えてしまい、30校以上の校歌が歌える。スポーツ選手の生年月日・出身校も一度見たら覚える。高校野球YouTubeチャンネル「イセサンTV」を開設。ちまたでは「スポーツWikipedia」と称される。

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